読書感想256 鷲は舞い降りた
著者 ジャック・ヒギンズ
生年 1929年
出身国 イギリス
出版年 1975年
訳者 菊池光
邦訳出版社 (株)早川書房
☆☆感想☆☆☆
本書はベストセラーになり、映画化もされた作品。解説を記している作家の佐々木譲は戦後の冒険小説のなかの最高傑作と推している。英語圏の中では音楽で言うところのスタンダードナンバーの位置にあるポピュラリティのあるエンターティンメントだと言う。つまり誰でも映画を見たか、小説を読んだか、そうでなくても内容を知っているほど有名なのだそうだ。
本書は設定が奇想天外だ。第二次世界大戦中に、ドイツの落下傘部隊が週末を過ごす予定のチャーチル首相を誘拐するために、イギリス東部のノーフォークの寒村に降り立つのだ。 彼らはイギリス軍の中のポーランド人部隊を装うが、ある事件が起きて正体が白日の下に曝されてしまう。
登場人物も多彩。ドイツの落下傘部隊を率いるクルト・シュタイナ中佐。IRAの兵士でお尋ね者のリーアム・デヴリン。ノーフォークの寒村に住むドイツのスパイの老婦人ジョウアナ・グレイ。地元の娘のモリイ・プライア。ドイツ軍のパイロットのペイター・ゲーリケ大尉。アメリカ軍のハリイ・ケイン少佐。などなど。
落下傘部隊はクルト・シュタイナ中佐がポーランドで一人のユダヤ人少女を助けたことから、数々の栄誉に輝く地位を剥奪され、懲罰部隊とされ、一か八かのチャーチル誘拐作戦の任務を与えられたのだ。しかも成功か否かには謀反の嫌疑をかけられた父親のカール・シュタイナ少将の命までかかっている。このシュタイナ中佐に見られるように、イギリスの敵であるドイツ側の人々が極悪非道なナチスではなく、勇敢で友愛に厚く動機にも人間的にも共感できる人物に描いているので、彼らの一挙手一投足から目が離せなくなる。主要な登場人物がそれぞれの信念(そのなかには愛も含まれる)を勇敢に守り抜く姿が清々しい。イギリスでナチス・ドイツの軍人を同じ人間として主人公とした小説なので感動的だ。