今回から、新連載をスタートいたします。 色々な考え方から診断をする診断術の一部だと理解して頂けたらと思います。
第一回目の今回は直感的推論について考えていきましょう。
直感的推論は無意識に行われる脳内シミュレーションの結果、迅速に判断を行う推論である。 無意識といっても、推論ルールや、ヒューリスティックス、クリニカルパールズを用いて行われ、芸術的な推論とも呼べるものである。 エキスパートがよく用いる方法であり、これが決まれば、スナップショット診断ともいう。
推論ルールの代表的なものについての例をいくつかあげてみます。
例1 65歳女性。 主訴:発熱・鼻汁。 一週間前より37度台の発熱、膿性鼻汁とのことで受診。 既往に10年前からの顕微鏡的血尿あり。 医学生の推論では「Wegener肉芽腫症疑い」であったが、指導医の推論では「副鼻腔炎」の診断となった。
この例での指導医の推論は、Rule of few zebra (ひずめの音を聞いたらシマウマよりウマを考えよ)というルールに基づいている。 これは「コモンな疾患がよりコモンに認められる」という推論である。 Theodore E. Woodward により記載されたものである。
例2 55歳女性。 主訴:リンパ節腫脹。 生来健康。 一ヶ月前より37度台の発熱、左側頚部リンパ節腫脹とのことで受診。 エコーの診断にて「反応性リンパ節腫大疑い」であったが、指導医の推論ではbiopsy要となり、その結果「リンパ節結核」の診断となる。
この例での指導医の推論は、サットンの法則というルールに基づいている。 サットンは、英国人で何度も銀行強盗を行って逮捕されたが、変装が得意なので脱獄を繰り返し、そのたびに銀行強盗を繰り返していた。 ジャーナリストの取材で、なぜ「銀行に」泥棒に入るのかという質問に対し、「なぜならそこにお金があるからさ(Because that's where the money is)」と答えたという。 臨床推論でもよく引用されており、とくに原因不明の臓器障害で当該臓器の生検を行う適応を考える際に引用されるものです。
今回はこの辺で、これからガンガン症例を載せていきますので、「へぇ、なるほどねぇ」という感じでご覧頂けると助かります。 では、次回も直感的推論でみていきましょう。