燃えるフィジカルアセスメント

総合診療医Dr徳田安春の最新医学情報集

直感的推論2 新連載 その2

2013-12-06 | 症例集

 前回に引き続き、直感的推論の症例集をあげて、考えていきましょう。

 例3 35歳男性。 主訴:昨日から右耳が痛い。  この場合、感冒罹患後の耳痛であれば「急性中耳炎」を考える。 一方、耳掃除後の耳痛であれば「急性外耳炎」を考える。 この推論は、Post hoc ergo propter hoc という因果推論で、「AのすぐあとにBがおきた場合にはBの原因としてAを考える」というようなものである。 「海外旅行」直後の発熱では、「海外旅行」中に罹患した感染症を考えるという例もある。

 例4 55歳男性。 主訴:脱力。  大量喫煙歴あり。 今回は二週間前より全身脱力ありとのことで受診。 身体所見上、バチ状指あり。 胸部X線写真上、左肺野に腫瘤陰影認める。 神経伝道速度は低下していた。 血清検査にて、抗ガングリオシド抗体陽性であったため、医学生の推論では「肺がんおよびGuillain Barre 症候群」であったが、指導医の推論では「肺がん+腫瘍随伴症候群」と一元的な推論となった。

 これはオッカムの剃刀という倹約的推論(Lex parsimoniae)であり、「最もシンプルな説明が正しいことが多い(The simplest explanation is usually the correct one)」というものである。 これは Franciscan Friar William of Ockham (1285-1347)が記載したものである。 「まれな疾患が同時に合併することは少ない」という直感的推論である。

 一方で、ヒッカムの格言(Hickam's dictum)というルールもある。 これは「コモンな疾患は同時に併存することが多い」というもので、50歳以上ではよりその傾向がある。 デューク大学のJohn Hickam 医師により記載された。 有名な例として、加齢と生活習慣が関与するSaintの三徴(食道裂孔ヘルニア、胆石、大腸憩室症の併存)がある。

 例5 55歳男性。 意識障害。  公園のベンチ上にて昏睡状態で通行人により発見され、救急車にて搬送。 既往歴など詳細は不明。 GCSはE1M3V1(合計5)、バイタルサインはBP180/100mmHg、HR100bpm、RR24pm、BT36,0℃、SpO94%であった。 瞳孔径は左右差なく、両側3mmであり、対光反射も両側迅速であったが、除皮質硬直を認めた。

 UCSF内科のローレンス・ティアニー氏はクリニカルパール(Clinical pearl)の重要性を強調している。 そのティアニー氏自身が最も好きなパールは「A stroke is never a stroke until it has received 50ml of D50 (注:D50=50% dextrose)」である。 この例でも、50%ブドウ糖50ml静注後に意識は完全回復している。

 以上で、直感的推論について推論ルールの例をみながら説明してきましたが、直感的推論の欠点としては、臨床経験が必要であることが挙げられる。 また、直感的推論はしばしばバイアスに陥りやすいことが指摘されている。 そのため次回は代表的なバイアスについて考えていきましょう。

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