フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 




 中央大学文学部の同僚である都筑学さん(心理学)が『心理学論文の書き方』(有斐閣、1800円)という本を出されました。この本には「おいしい論文のレシピ」というサブタイトルがついていて、こちらがこの本の性格をよくあらわしているように思います。
 簡単に言うと、心理学の論文を書く過程と料理を作る過程とを重ね合わせて解説しているところに、この本の大きな特徴があるようです。たとえば、論文を書く場合の「問題意識」は料理で言えば「だし」にあたるもの。それは論文の前面には大きく出てこないものの、論文全体の基調となる大切なものと論じられています。また、「アイデンティティ」をテーマに心理学の論文を書くとしても、扱い方によって違った論文になる。たとえばそれは、エビを素材に料理をするにしても、中華風のエビチリ、洋風のエビグラタン、和風のエビ茶碗蒸しになるようなもの。こういった料理との重ね合わせの中で、心理学の論文の書き方がわかりやすく語られています。
                
 都筑さんのように体系的に料理と研究を結びつけたわけではありませんが、私も過去に料理と研究を重なるものとして感じたことがあります。その時感じたのは料理の「道具」に関してでしたが、この話を書くと長くなるので、それはいずれ私のホームページ中央大学宇佐美毅研究室の方に書くことにしたいと思います。
 都筑さんの本はこのように料理と論文執筆を重ね合わせることによって、論文の最初の発想の部分から完成させた後のことまでがわかりやすく語られています。特に感じたのは、執筆するところまでで終わりではなく、その後のことまでフォローしてくれていることです。タイトルの付け方とか、自分の論文を読み直して見ることの重要性とか、論文提出後に口述発表をする場合の要点とか、そういったことまで想定して解説されている点で、実に親切に書かれた本だと思いました。
 私は文学が専門なので心理学にはまったく詳しくないのですが、この本を読んで心理学でも文学でも基本的な論文を書く過程は同じだということ、その一方で実験のしかたやデータ・統計の取り方という部分では(文学では「論証」という考え方が強くて「実験」「データ」「統計」という概念はあまりないという)違いがあることを感じました。
 私にとっては、自分がしている文学研究の普遍性と特殊性とを再認識するいい機会になりました。また、自分がこれからどのように学生の論文指導をしていくか、そのことに関しても貴重な示唆を受けました。これから論文を書く学生や院生の皆さんにもぜひ読んでほしい本です。
               



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