考えるための道具箱

Thinking tool box

◎『TIME the CONQUEROR』

2008-10-05 00:59:31 | ◎聴

Jackson Browneのアルバムは、いわゆる地味目な曲が多いため、一度聴いただけだとなかなか、その良し悪しのようなものが判断できないんだけれど、3度目くらいでだいたい見えてくるかどうか、といった感じだ。もっとひどい場合は、聴き始めて1年後ぐらいに良さがわかってくるなんてのもある。たとえば『LAWYERS IN LOVE』なんかはポップで、しかしじつはしょぼい曲の多さにごまかされて、始めのうちは、いいんじゃない?と、聴きこんでみるが、そのうちアルバムの出だしに固まっているポップな曲のそのしょぼさに気づいてだんだんと聴かなくなって、1年ぐらいたって久し振りに聴いてみて、B面(つまり後半)の曲に圧倒されたなんてこともあった。

『TIME the CONQUEROR』も、もうほとんとが静謐で、キャッチーじゃない曲のように聴けてしまうので2度ぐらいであきらめてしまうと、やっぱり昔のJacksonがいいなあなんてことになってしまいそうなのだが、このたびはそんな愚行に陥ることもなく、この作品群の良さに気づくことができた。6年も待っただけあって、これまでのJBがJBをうまい形で換骨奪胎できたすばらしい曲がそろっている。妙にJBがJBにこだわっていた前作の『The Naked Ride Home』は、それゆえに無理がありどうも好きになれなかったのだが、『TIME the CONQUEROR』には、それこそ『LAWYERS IN LOVE』のB面にも似た感動がある。そしてそれは、"Sky Blue And Black"に出会ったときの感じに近い。あきらめずに、Jackson Browneを聴き続けてよかったと思う。

『TIME the CONQUEROR』は、曲づくりにおいて、昔の何かを目指して無理をしようとしていないところがいいんじゃないだろうか。詩においては、あいかわらずポリティカルな話も多いんだけれど、それすらキンキンになっているようには見えない。全体としては、『I'm Alive』の方向にいったん戻ってそこからなにか新しいエッセンスを加えて突き詰めたような印象がある。Jackson Browneを聴いたことがない人にとってみれば、どれも一緒じゃんということになるかもしれないが、毎回なにかを期待しながら新譜をまっているような人間にとってはかなり新鮮に思える部分がある。女性コーラスを前面に押し出していることもあり、60歳になってまた初めて新しいJBを作り上げられたように思える。

たとえば、10分近くある"Where Were You?"なんかは、「ハリケーンとかなんやかやで、みんながこんなたいへんなことになっているときに、あんたどこにおったんや?」てなことを誰かさんに問い詰めるという点では、"Lives in the Valance"のように歌い継がれる曲になりそうだ。同じくポリティカルなメッセージをもつ"The Drums Of War"のスタティックな迫力はじわじわ効いてくる。"The Arms Of Night"、"Far From The Arms Of Hunger"など、静かな曲に、ずっと聴き続けたいと思えるような味がある(いまあげた曲のほとんどがバンドのメンバーとの共作、というのは彼自身の曲作り能力という点では少し残念だけれど)。

ところで、邦訳は『時の征者』。「しちょうしゃ」って読むのかな。それとも「せいじゃ」?どう考えても「征者」なんて言葉はないような気がするんだけど。もうこんなところに無駄なコストをかけるのはやめにしないか。確かにCONQUERORというのはちょっと発音しにくいので、称呼として必要なのはわからないでもないけどれど。

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