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これらのことを考えると『半島を出よ』については、自明の批判をおこなうより文芸批評的な視点からプラス面を吸い出す作業をおこなったほうが面白いかもしれないし、なにか発見があるかもしれない。
たとえば、「新しい小説」の形と見做した場合はどう?たとえば、ポリティカルでエコノミカルなテーマを文学として着地させるという形式。もちろん、すでに経済小説というエンターテイメントのジャンルはあり、しっかりとしたファクトに基づいて書かれているものも多い。それらのビジネス・シミュレーションと『半島』はどこが異なるのか?なにか生きていくうえで大切な箴言や教訓のようなものが散在しているところか?それとも、ナショナルな課題を謳いあげるマッチョなネオ・イデオロギーか?もし、このことがうまく作用していれば、ドン・デリーロの『アンダー・ワールド』や『マオⅡ』のようになっていたかもしれないが、どうやらそれとは違う。もちろん『神聖喜劇』とも違う。なにかすっきりしすぎているのだ。これを考えると「新しい小説」には、やはり数センチ届いていないのか?
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また、異様な量のリアルな情報を文学のことばとしてまとめあげた結果リアリティを減速させていく手法はその功罪を見極める必要があるが、はたしてそこに『なんとなくクリスタル』を越える斬新性はあるのか?
さらに、主体や視点にについては?これだけの膨大な登場人物とシーンを力技でまとめているところをみると、主体(語り口)や視点について描き方については、かなり詳細に分析すれば、なにか技巧がみつかるかもしれない。たとえば、内閣危機管理センターでの円卓会議の場面とかね。ただし、いま群像劇といえば『シンセミア』で、そこで多元視点について揺るぎのない答えが出ている以上、なにか違う答えを出さなければならない。さて、新しい手法はどこかにあったか?
そして。そして、これは龍の集大成と読んでいいのか?おそらく、これにてしばらく龍は小説を書かないだろうことが予測されるが(外伝的なものは別として)、場合によっては最後の小説になるかもしれない『半島』は、代表作たりえるのか?たしかに、過去の作品の多くの「書くべき」ことが満載されているのだが、それは焼き直しにすぎないのか、再統合がはかられたものなのか?たとえば、高麗軍殲滅後、九州が日本政府を拒絶し独立をめざすくだりは、どこかでみたあの独立とどう異なるのか?それとも進化した洗練された独立の形なのか?
いやあ、なんか書いているうちに、楽しくなってきちゃいましたねえ。じつは、いま過去の作品なんかも読み直してみたりしてるんだけれど、ちょっと村上龍ブームになりそう。この「マイノリティ」を書くことをテーマとしながら「メジャー」になってしまった不協和小説について、床屋談義するのはなかなかによいトレーニングになる。これは、間違いなくゴールデンウィークのお楽しみだ。って、GWがヒマだったらの話ね。
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↓なぜ「本&読書のblogランキング」なのに、
↓『半島』は議論されないのか。
↓まあ、しようがないっすね。
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『半島』は、おそらくたくさんの批判が寄せられるから、逆張りしようかと思って、良いところ吸出し運動を始めましたが、すでにお気づきのように、吸い出そう引き出そうとしても、すべてアイロニカルになっちゃったわけです。いちばんのポイントは、ishmaelさんの指摘にもあるように、リアリティの問題で、これを突き詰めていくと、またぞろ「文学の限界」みたいな議論がぶり返されそうなので、防御線として、「新しい形式」みたいな対論をぶっつけみたらどうか、と単純に思ったわけです。でも、考えれば考えるほど、また最近の若手作家を読めばよむほど、分が悪いですね。
まあ、市井の読者としてはstick toする必要はほとんどないわけなのですが、このあたりはishmaelさんの基本思想(せっかくぶ厚いの読んだんだからなんか残さないと)に通底しているという感じですか。だからGWに考えるとか、言っていますけど、あまり本気でないかもしれません。
ただし、『半島』は「物体」としては(そこにつぎ込まれた尋常ではないエネルギーも含めて)たいへん価値のあるものだと認識していますので、論点を「幻冬舎マーケティング文学」とかに変えていくかもしれません。っていうか、これも皮肉ですね。
これからもよろしくお願いします。
愉しませてください。
最初っからヘヴィな書き込みになりました、すみません。いつもはサイレント・ビジターですが、これからもちょくちょく寄らせてもらいますね。