考えるための道具箱

Thinking tool box

図解3冊。

2005-02-03 16:20:49 | ◎業
どうやら、いまビジネス・パーソンは「図解」を求めているようだ。まあ、いまに始まったことではなく、この3年ぐらい、たとえば久恒啓一氏の技術などを中心に、図解ブームはもりあがり続けている。はたしてそんなことして意味あるの?と思わせる「マインド・マップ」も、ようは図解である(あたりまえのこと言ってすみません)。
人が図解を求めるのには、さまざまな理由があると思うが、もし、図解というビジネス・コミュニケーションの本質を理解したとき、この技術は仕事、もっというと生活をすすめていくうえで有効に作用し、その点で、久恒氏の言うとおりなにからなにまで図解で考えてみよ、というのは腑に落ちる。

一般的に図解を語るときその効能は「思考力」「プレゼン能力」の2つがあげられるが、後者はあくまでも思考の結果のアウトプットという点で副産物であると考えれば、「思考」のサポートこそが、図解の本質と考えられる。そしてつきつめて考えれば、本質は「●モレとダブりのない(MECE)検討要素の並べ方」、MECEを原点とする納得性の高い「●要素分解の方法」、そして分解した要素間の「●関係性のつけ方」という3つの要素ということになる。

したがって、その方法論は100も200もあるわけではなく、世にある図解読本のうち有効なものは、基本的には上記3つの要素項目を極めることにしか言及しておらず、あとはそれぞれの項目のバリエーションを例示しているにすぎない。それゆえに、みんなが驚くような新しいスタイルの図解、かっこういい図解が紹介されているということはまったくないわけだ。しかしだからといって、これらの本を何冊も読むことに意味がないかといえば、そうではない。

たとえば、検討案件に応じたMECEは、いちから自分で考えるのは骨の折れる作業なので、だれかが考えつくした定型のフレームワークがあれば助かる。関係をつけるということはレベルを整理するということだが、じつはここは難易度が高く、同じことを何度も愚直に繰り返し学ばなければ、自家薬籠中のものとならない。その点で同じようなものを、案件ごとに切り替えながら対処療法的に何冊も読む(見る?)ことはじつは鍛錬になる(しかし、上記3要素にふれていない図解読本は読んでも意味はない)。

ということで、まったく新味のないあたりまえの枕話が長くなりましたが、図解能力がつくと思われる3冊をご紹介します。

『図解でわかる 技術マーケティング』
(ニューチャーネットワークス編、日本能率協会マネジメントセンター)
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マーケティング戦略と戦術を考えていく際の思考の効率化のためのフレームワークがたくさん例示されていて辞典としてかなりハンドリングが高い。「図解でわかる」というシリーズ名称はまったく重要ではなく、むしろ「図解がわかる」とか「検討フレームがわかる」といった法が正しい。そのため、過去の「図解でわかる」シリーズとは異なり実践的になっている。

なぜ「技術」なのか?という部分は少しわかりにくいが、通常の経営/マーケティング戦略検討のステップの前後に、技術部門のケイパビリティの検証や、技術開発課題リストの作成と重点化、技術ベースマーケティング戦略の策定などが付加されているからだろう。シーズとニーズ+経営資源をMECEとしてバランスをとる、という点への言及があるかもしれない。いずれにしても「技術」に限らないビジネス課題の解決に役立つ内容にはなっている(書籍タイトルネーミングとしては、秀逸だと思います)。

紙面の大半がフレームワークの埋め方や、埋めた図解(分析書・企画書フォーマット)の解説に費やされていて、もし現状なんらかの検討案件を抱えているとすれば、いちいちあてはめてみる価値はある。図解の本質がわかっている人にとっては、MECEの検証および関係性/ストーリーラインを作っていくための材料として受容性が高いと思われる。


『あのヒット商品のナマ企画書が見たい!』
(戸田覚、ダイヤモンド社)
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例示されている企画書は「うるるとさらら」(ダイキン工業)、「インフォバー」(KDDI)、「体組成計」(オムロン)、「オニツカタイガー」(アシックス)、「バンダイミュージアム」(バンダイ)、「ドリエル」(エスエス製薬)、「特打」(ソースネクスト)、「自由が丘スィーツフォレスト」(ナムコ)など。いちおう企業内部の企画書のため答申書的なものも多くすべてが「図解」的というわけではないし、玉石混交でもある。

よってこの書籍の価値は、やはりビジネス要件におけるMECEの確認、ということになるが、もうひとつ重要なのは、当該企業ににおける企画文化、起案文化、企画書の文脈がわかることだ。もちろん、全公開はしていないだろうし、外部へ委託しているものも多いと思われるが、それでも、その企業のおける思考のルール、ビヘイビアの片鱗はわかる。

たとえば、わたしはよく住宅メーカーの商品/マーケティング戦略を考えることがあるのだが、同書に掲載されている、へーベルハウスの「プラスわん・プラスにゃん」などの商品企画書のつくりは、彼らの思考の流れの幹がわかり、良きにつけ悪しきにつけベンチマークできる。彼らの事業理念である「ロングライフ」と「ペット住宅」の関連性のロジックなどはなかなかに興味深い。「ペットという新たな切り口を投入することによる機能的ロングライフの質的向上」という一文をとってみても、旭化成のマーケティング/コミュニケーション戦略上重要な考え方が多く示されている。

そのほかの事例でも、一見文字の羅列で、たんなる答申書にしかみえない企画フォーマットが、長年のブラッシュアップを経てきた結果、見事に構造化(じつは図解化)されていることがわかり、ビジネス・プランを考えるための充分なヒントとなりえる。


『日経ビジネスAssocie 図解力を30分でマスター』
(02・15号、日経BP)
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いつも魅力的な特集タイトルで、わたしを惑わせる同誌だが、立ち読みの結果、その内容の希薄さにあきれて結局は買わない。今回は、起床直後の寝ぼけ状態でコンビニで見つけたため思慮浅く買ってしまった。結果は、う~ん、まあまあ、というところでしょうか。

3つの図解(マトリックス、ピラミッド→ロジックツリー、サーキット→サークルorネットワーク?)で充分とする第一特集はまあ正論だし、達人として紹介されている松下弘子氏の「インプット→肝→アウトプット」という考え方は、『企画の道具箱』(細野 晴義、里田 実彦、実業之日本社)でも言及されている思考の核心ではある(※)。分類王・石黒謙吾も、HOT WIRED JAPANでの連載ほどは冴えないが、まあ図解エンターテイメントとしては楽しめる。まあ、CCCの増田社長の記事なども含めて、図解に臨むマインドセットがわかる、といったところか。

ただし、特集とは別の「バンダイ、松下社員はなぜ仕事が面白くなったのか?」といった記事は、あいかわらずペラペラで、もしこの雑誌が1000円だったとしたら噴飯ものだ。

ということで、久しぶりに企画のフレームをやってみました。下町貴族さんはこころして読むように。

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(※)『企画の道具箱』は、一見よくあるノウハウ本のようにみえるが、じつは核心をついている部分もある。すべてのビジネス・プランニングは、これだけで充分という基本フレームが提示されていて、それは「コンセプト化」を頂点し、「ファクトの構造化→課題抽出 ピラミッド」と「コミュニケーションの構造化 ピラミッド」を羽とするバタフライにすぎないのだが、このフレームを使いこなせない限りコミュニケーションは上手くいかない。

 
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