考えるための道具箱

Thinking tool box

夜の動かない街

2004-09-09 20:02:27 | ◎書
『アフターダーク』(村上春樹)のなかに、鳥の目(※)が、ほとんど動きのないTVモニターを見つめながら、「ずっと眺めていることができる」、といったようなことを語る場面があるのだが、わたしも同様の経験を思い出した。それは、豊中ケーブルテレビの深夜の放送休止映像だ。なにも視力回復のために砂の嵐を見ているというのではない。そこにあるのは、深夜の街の風景。おそらく豊中市内のどこかに定点のカメラがあり、そこからの映像を、リアルタイムで、静止状態で延々と放映しているようだ。たとえば、大阪国際空港周辺の阪神高速道路あたりであったりするため、ときおり車のヘッドライトが、モニターを横切る。ほとんど動きのない画面なのだが、こんな深夜でも点いているオフィスビルの窓の明かりや、あまりメジャーではない企業のサイン、高速道路のオレンジの街路灯などを見ているとさまざまな想像が広がり、まさに、ずっと眺めていることができる。そして、気持ちが浄化される。なぜ?これは、夜の新幹線の米原あたりの田園風景や三河安城あたりの郊外の風景、信州に向かう夜行バスのカーテンの隙間の山麓を見る感覚と似ている。寂寥感とか静謐さが、心を穏やかにするのだろうか。この状況や感情を一度うまく叙事・叙情文化してみたいと、ずっと考えている。

※まだ最後まで読んでいないので「鳥の目」としかいえません。