考えるための道具箱

Thinking tool box

後藤繁雄さんの書評。

2004-09-25 02:21:25 | ◎読
(1)『くろい読書の手帖』(後藤繁雄、アートビートパブリシャーズ)
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なんというか…まいった。びっくりしてしまった。
すばらしい視座の読解と、丹精で愛情のこもった文章。最近いろいろあって、読書のペースが落ちていた私を、再び思索の海へ奮い立たせ、同時にブログで駄文を垂れ流している日々を大いに戒めた。

後藤繁雄さんという人については、『僕たちは編集しながら生きている』(マーブルトロン)を斜め読みして、プロフィールなどまったく読まず、「生活をクリエイティブするための編集」といったような箴言だけに惑わされ、よくあるスーパーエディターといった程度の理解しかもてなかった。もっとフラットな立ち位置で接するべきだった。この価値観の凝縮性には困ったものだ。『Intercommunication』などでも執筆しているとのことなので、確実に、彼の文章に接しているはずなのに。

いや、バックグランドなんてどうでもいい。これらテキストにだけ真摯に向き合うべきだ。なぜ私は『彼自身によるロラン・バルト』を、彼のように慈愛できなかったのだろう。『アンダーワールド』をここまでていねいに読めなかったのだろう。『ガラテイア2.2』にある愛を表現するための言葉がもてなかったのだろう。そして村上春樹の構えを分解できなかったのだろう。
限られた枚数であるがゆえに、その本のすべてを語っているとは言いがたい。そればかりか、ときには知識と経験の深みへ脱線する。しかし、ここにあるのまぎれもなく、愛すべき本への書評である。

書物に対して、こういったレスポンスができるのはとても幸せなことだ。ゆっくり時間をかけ、都度立ち止まり思考をめぐらせる読み方ができれば、創造の手に神は降りるのだろうか。