Facebookで「秋はドゥービーの季節」だと宣ったご同輩がいたので、調子にのって彼らのレビューを続けることにした。というか、この作品はある意味、初めてドゥービー・ブラザーズがどういう音楽を目指しているかということが明確になったアルバムである。ここまで4枚の彼らの遍歴を辿ってみると、ファーストは如何にもアメリカ伝統のカントリーと60年代の流行であるフォークロックを踏襲させて素朴、かつ躍動的な音楽をやってみせたが、残念なことに華がなく、注目を浴びるものではなかった。70年初頭は商業音楽が中心になりつつあった頃だから、多分、こういう作品はもの凄く売りにくかったのだと推察できる。2枚目から前作までは、まるでバンドのコンセプトなどないように結構自由な音を出しているが、言い方を変えればそれは、あらゆるジャンルへのあくなき挑戦という言い方もできる。要は、この時代、セールス的に成功しているアメリカのロックバンドにはそれなりの特徴があった。まだ、リンダ・ロンシュタットやイーグルスという、この後スターダムに上っていくウエスト・コーストのミュージシャンたちも、シングルはそこそこヒットがあったが、まだ然程アルバムも売れてはいなかった。そういう意味でドゥービーはこのノーコンセプトながらもバラエティに富んだ楽曲の面白さっていうのが、彼らの特徴だったのかもしれない。また、特に彼らの追い風になったのが、前作「ドゥービー天国」からシングルカットされた"Black Water"がシングルチャートで彼らにとっては初の全米No.1になった(しかも同アルバムからは3枚目のシングルカットだったにも関わらず)ことだ。
このアルバムから、前作ではゲスト出演していたジェフ・バクスターが正式メンバーになった。つまり、トム・ジョンストン、パット・シモンズに加えてトリプル・ギター編成になった。当時はまだ、ロックバンドでトリプルギター編成というのは珍しく、レーナード・スキナードくらいだったと記憶している。最初の曲”Sweet Maxine”はディキシーっぽいイントロだが、前3枚で培ってきた、所謂ドゥービー・サウンドであり、ファンを引き付ける。また、このアルバムで画期的なのは、テンポ速い曲、ちょっと気だるい曲などの順番が見事であるので、聴いていて疲れないの。今まで彼らの作品はこういうところに余り工夫がなかった。でも、例えば3枚目の作品「キャップテン・アンド・ミー」で、”Long Train Runnin”ファンと”South City Midnight Lady”ファンが分かれた事実など(筆者、無論、後者です。前者はドゥービーでなくたって出来る曲だから)、彼らには結構嬉しい悲鳴が多かったのである。また、この作品にはキム・ウェストンのヒット作、” Take Me in Your Arms”が収録されているが、これがシングルでも大ヒットし、オールドファンにも認知されたのが大きい。ドゥービーというと一般的に、前出のサードアルバムが評価も人気も高いが、アルバムとしてのまとまりやクオリティの高さは、この段階では、この作品がベストだと思う。
この作品には、マリア・マルダー、ライ・クーダーという、玄人好みのミュージシャンも参加している。ある意味、この時点ではアメリカのロック音楽の中枢だったのかもしれない。彼らの商業的成功が、イーグルスやリンダ・ロンシュタット、ジャクソン・ブラウンを刺激し、ウエストコースト・ロックの確立に繋がったのは事実であろう。同時に、そしてこれが、トム・ジョンストンの最高傑作でもあるのだから。
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