音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

エクスタシー (スティーリー・ダン/1973年)

2013-05-18 | ロック (アメリカ)


筆者としたことが、スティーリー・ダンのアルバムレビューを、ファーストのキャント・バイ・ア・スリルのレビュー以来、なんと、1年半も書いていなかったことに気がついた。こういうアーティストって他にもたくさん居そうだが、よりによって、このバンドに関して忘れていたなんて迂闊だった。なので、取り敢えず書いてみた。

当然のことながら、このバンド(というかユニット)は、どうしてもドゥービーと色々なところで比較してしまう。だが、どちらもアメリカに於けるロック音楽の成功例だと思うと、当たり前のことかもしれないが、実はとても気分よくレビューが書けるので、この作品はそっちのトーンで書いてみる。と、なんでそんなところから入っているかと言うと、このセカンドアルバムの「エクスタシー"原題:Countdown To Ecstasy"は、実際には、ライブコンサートの間に急拵えでセッションを行って録音された作品である。実はファーストアルバムのレビューでも書いたが、最初のシングル”Do It Again”が全米第6位という、意外や意外な幸運に恵まれてしまったために、彼らは一気に注目されることになった。プロのミュージシャンなのだからライブ活動は必要不可欠だが、そもそもからして、作曲家としての活動を望んでいたベッカーとフェイゲンは、極端にライブ活動を嫌っていた。この作品も、そんなライブ活動に併せて作曲された作品集であるから、二人はそもそもアルバムとしての発表に関しても肯定的ではなかったのである。この辺りのことが、後々、他のメンバーとの軋轢を生み、結果このバンドが大きく変貌し、当時のロックバンドとは全く異なった軌跡を辿ることになるのだが、それは今後の作品のレビューで徐々に書いて行きたい。また、そんな理由で作ったためか、このアルバムからは、シングル・ヒットした曲が1曲もなかった。そもそもが、ベッカーとフェイゲンはシングル・カットすら反対だったのである。筆者が冒頭で「スティーリー・ダンは成功例」と敢えて断ったのはそういう事情があり、彼らはある意味商業化されつつあった自分たちの音楽のプロモーションには思いっきり反対だったということだ。また、この作品が、セッションを中心に作ったというところはあらゆる部分に表現されているが、中でも筆者は” Your Gold Teeth”が一番その要素を強く感じる(というかセッションそのもので後半のアドリブ部分は最高である)。そもそもが、このバンドの特徴は「ウエスト・コーストにジャズが見え隠れするサウンド」であり、それは曲だけでなく、バンド編成の考え方にもそのことが色濃く現れている。アメリカンロック・ミュージシャンのアルバムには多かれ少なかれ、上記の要素が点在しているが、スティーリー・ダンはそれを全面に出しているところがその他多くのアメリカン・ロック・バンドとは違うところだ。そしてそれにある種の憧憬を感じている名うてのミュージシャンたちが、この作品以降、このバンド作品の収録に関わってくる。つまり、最もアメリカらしい音って言い方も強ち間違いではない。

メンバーのドナルド・フェイゲンは、スティーリー・ダンのアルバムとしてはこのアルバムが最も気に入っている作品だと言ったという。これも面白くって、そうか、じゃあこの先のフェイゲンは一体なにをやっていたのかって? そう、この先は「ただの商業音楽家」なのかもしれない。だから自らの主張はすべてこの作品に出し切って、葬ったのかもしれない。それは、これからこのバンドに起こることをこの時点で予測していたんだという推理は当たっているのかもしれない。そして、それは実に興味深いことなのである。付け加えれば、このアルバム以降、2003年の「エヴリシング・マスト・ゴー」を除いて、すべての曲のリードボーカルをフェイゲンが担当するようになった事実があるが、達観したのだろうか。因みにこのアルバムの最初の曲は”Bodhisattva” 「菩薩」。この時点で修行中だったのである。


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