すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

「夏の終り」

2021-08-24 13:21:55 | 

 ぼくは若い頃、頭の回転はすごく遅くて、仲間たちの議論や会話についていけないことがしょっちゅうだったが、暗記力だけはあった。平家物語の「大原御幸」の段や白楽天の「長恨歌」や陶淵明の「帰去来の辞」などは暗誦していた。フランス語も、当時の教科書MAUGER(Bleu)の本文を電車で丸暗記して覚えた。
 今はもう、全然ダメ。歌の文句でさえ口ずさもうとすると忘れていたりごちゃ混ぜになったりする。きのう挙げたうち、「悲しくて…」の方はともかく、伊東静雄の「夏の終り」の方は、繰り返し読んでいるはずなのに、思い出そうとしてみたら最初の3行しか出て来ない。
 それで、家に帰って読み直してみた。改めて心に沁みた。

夜来の台風にひとりはぐれた白い雲が
気のとほくなるほど澄みに澄んだ
かぐはしい大気の空をながれてゆく
太陽の燃えかがやく野の景観に
それがおほきく落す静かな翳は
……さよなら……さやうなら……
……さよなら……さやうなら……
いちいちさう頷く眼差のやうに
一筋ひかる街道をよこぎり
あざやかな暗緑の水田の面を移り
ちひさく動く行人をおひ越して
しづかにしづかに村落の屋根屋根や
樹上にかげり
……さよなら……さやうなら……
……さよなら……さやうなら……
ずつとこの会釈をつづけながら
やがて優しくわが視野から遠ざかる

 (ぼくはワードで行間に振り仮名をつけることができない。つけようとすると行間の幅が変わって不揃いになってしまう。今までは漢字のすぐ後にカッコつきで入れていたが、おおぜいで歌う歌集なんかならともかく、詩の場合はそれではひどく醜いし、作者の意図にも反する。それで、今後、必要があったら、本文の後にまとめてつけることにする。)

 もともとついていた送り仮名(原ルビ):翳→かげ、水田→みづた、面→おもて
 ぼくが勝手につけた送り仮名(勝手ルビ):頷く→うなづく、眼差→まなざし

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