すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

「神殿の傍らで」

2020-09-08 14:08:01 | 
神殿の傍らで
少年は待っている

 ポケットからつかみ出して掌にのせて見せるのは、浮彫模様もわからなくなった古代貨幣のいくつかだ。それを値切って買っていくのは、車を連ねて何百キロもこの砂のなかの遺跡を見物に来る、様々な言語の人間たちだ。

無論
少年が待っているのは彼らではない

 彼らが去ってしまうと少年は首を振り、残った貨幣を砂に投げ、円柱の台座に腰を下ろし、もうひとつのポケットからひとつかみのナツメヤシを出す。そして、石の間から湧き出す水を飲む。

 水は二千年前も今も、同じように澄んで冷たい。ここにこのような水があるのになぜ、人々はこの都市を捨ててしまったのか。

少年はあいかわらず待っている

 夜になると彼は、翼の折れた巨大な人面の石像の下に上衣を広げる。横になった少年の顔は星明かりの下で、憂いに眉を寄せたその石像の顔にそっくりである。
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