基層社会は、古代より徒歩を交通手段とする日常生活エリアが存在してきた。これを画期的に変化させたのが、自動車交通の発達である。ところが、高齢者の自動車免許の返納により、改めて徒歩を主にする生活者の割合が増えてきた。それで、徒歩で10分から20分の範囲の日常生活エリアを最末端のローカル・コミュニティが、空間機能として意味をもつようになる。とはいえ、これは持続的な傾向ではなく、今後、10年から20年程度の一時的な現象である。そのために、恒常的な制度を設計する必要はない。あるとすれば、コミュニティを循環するバスの経路や停車場所の緻密化で補うことができる。
では、基層社会は、どの程度の空間エリアに落ち着くのが良いのだろうか?実は、これは難問題である。一つには、公共交通の利便性が大きなポイントであるが、それだけでは、自動車交通の発達を前提とした住居群の空間分布とは整合しない。「広い無料で利用できる駐車場」を提供できるショッピング・モールは、まだまだ恒久的な集客力を失わない。だから、徒歩圏という最小の空間エリアへの巡回サービス業は、今後、10年から20年の持続性しか想定できないが、個人の起業にのみ期待しないで、ラスト・ワンマイルの物流サービスにつき、郵便、宅配、新聞配達などの「物流端末拠点」を行政が設計する余地は、まだ大いにあると思われる。ラスト・ワンマイルの物流サービスを、端末で複合化・一体化する余地が残されている。