TMA講師代表:昨日で、富山マネジメント・アカデミーの2016年秋学期が終了した。株式会社アリタの監査役の織田肇さんを講師として、戦略的な会計実務を紹介し、その特徴を論じてもらった。
企業会計には、基本となる財務3表をコアとする財務会計にほかに、経営の戦略にかかわる管理会計の2種がある。そして、そのほかに、税務会計がある。日本の大部分の中小企業では、財務会計のデーターをもとに税務会計をおこなうのが精一杯である。経営戦略の再検討、発展戦略の策定に必要な「管理会計」は、それぞれの企業文化に関係するが、この部分が活性化していない事例が多い。
「財務会計」は社内でおこない、「税務会計」は税理士に任せるが、このやり取りが経営者の経営戦略の眼を曇らせる原因となりがちである。そして、今期、TMAでとりくんだゴールドラットのスループット会計理論は、経営「管理会計」に属する部分であって、既存の「財務会計」と「税務会計」に代わるものではない。あくまでも経営戦略論の一部を占めるにすぎない。
この秋、講師代表の中村哲夫は、ゴールドラットのスループット会計理論を再検証した結果、スループットの概念を個々の製品の「スループット原価計算」の例題は、ゴールドラット理論の自己矛盾であるという研究結果を発表した。
ゴールドラットの正しさは、伝統的な「原価計算論」への批判にある。個々の製品に「労務費」を推論的に割り振る原価計算論は、手間がかかり、さらに推論を含む仮の計算値である。それは批判として正しい。ところが、ゴールドラットも、原価計算論のワナにはまり、個々の製品の生産に要する時間と、販売価格-材料原価の差額で得られる利益にスループットの概念を当てはめ、ゴールドラット流の原価計算論を主張したことである。
この講義を三協立山の担当のかたに聞いてもらったら、いまでも煩雑で、何万という部材原価計算に加えて、ゴールドラット流の原価計算論を採用する手間は、企業に余分な負担となるという否定的な答えだった。それで、講師代表として、自己責任でゴールドラットの理論のロジックの矛盾として、スループットの概念は、財務3表の内の、損益計算書P/Lで表現される次元と相似であり、その意味で日本の伝統的な会計基準となじめるが、スループットを個々の製品原価計算論に落とし込むのは、論理の自己矛盾である、と結論づけた。この結果、日本のゴールドラット派の代表である岸良祐司は、スループットという用語すら使用していない。ゴールドラットの思考法を職場の改善に役立てる「TOC飲み会」運動だけが盛んである。たまたま㈱アリタでは、自社製品の生産をしないで、TOTO製品などを代理店として仕入れるから、複雑な原価計算論はどちらにして不要である。
結論としては、伝統的な「財務会計」である「損益計算書」をゴールドラットの制約理論の観点で再検証し、利益の最大化を妨げている制約要因を見つけ、それを管理会計の次元で、さまざまな指標管理指標に移し替え、見える化するべきだという理解に達した。