中国共産党の習近平総書記の、党としての直属部下のうち、外交政策の決定の総括責任者は、中央対外連絡部長の宋涛氏である。新聞は、「特使」と報じているが、党と党の政党外交の業務である。これは、中国共産党大会への祝電への謝礼と、周辺の友好関係に深い党への表敬訪問である。だから、表向きは、儀礼的なものである。問題は、宋涛氏が、北京に帰国後に習近平総書記に対し、どのような報告や進言を行うか、という判断の問題である。朝鮮労働党との「対話談判」ではなく、「談判」に踏み込まない「対話」という使命しか帯びていないとするのが、面子を守る仮面となる。周囲は、大きな期待をかけるが、ある条件を提示し、妥協を探る「談判」には至っていない。けれども、まずは儀礼的な対話により、中朝の軍事同盟を廃棄しない、という枠組みの持続が確認され、それにより、アメリカの極東軍事力への対抗手段の内容をめぐる見解の相違が再確認されたと予想できる。というのは、中国は「朝核」という表現で、朝鮮半島の非核化として、北朝鮮とアメリカの双方に非核化を求めたのに対し、北朝鮮は教条主義的に自国の核の正義論を振りかざし、軍事冒険主義を維持したうえで、逆に、中国を介してアメリカの譲歩を強く求めたと思われる。
ただし、習近平政権にとり、北朝鮮の問題は、解決のための優先順位は低く、中国の国益にとり「核心的利益」はない。まして、東北三省は、当面、経済的な劣後地域として、教条主義に共鳴しやすい東北三省人と朝鮮族の利便性を早急に図る動機も必要もない。「一帯一路」の枠組みには、東北三省人と朝鮮族は含まれていない。宋涛氏には、中共中央の円卓の外側の「日陰」に太陽光を呼び込む動機はほとんどない。現況を維持することが、中共中央を高く売り続けられるとみている。何らかの、早急の、焦眉の解決課題ではない。北朝鮮のことを早急に考えないことで優位性と面子が保たれる。現況は、中国にとり、利益もなければ、不利益でもない。北朝鮮は、中国共産党の対外関係の歴史の寄生虫であるから、歴史談義の対話という座談のネタに過ぎない。