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今日の筆洗

2024年05月18日 | Weblog

中山道大湫(おおくて)宿は江戸日本橋から数えて47番目の宿。現在の岐阜県瑞浪市大湫町に当時の面影が残る▼旧宿場で語り継がれる出来事は1861年、徳川14代将軍家茂に嫁ぐ皇女和宮らの宿泊である。京からの一行は約5千人。宿場に招集された人馬は2万8千人と820頭に上った。4日間にわたって大湫宿に泊まったという比類なき大行列である▼53年のペリー来航以来、世は騒がしくなった。外敵と向きあうため朝廷と幕府が団結しようと、別に婚約者がいた和宮を将軍家に嫁がせることに。国策たる結婚である▼現代の国策たるリニア中央新幹線が地下を通過する予定の旧大湫宿で、井戸やため池の水位低下が相次いでいる。昔、旅人も飲んだ古い井戸も枯れたと聞く。リニア建設工事の影響らしい▼JR東海は代替水源となる深い井戸を掘り、トンネル掘削を一定程度進めてから工事を中断して詳しい原因を調べるというが、水位低下が見つかったのは2月。最近になって問題が報じられてから、バタバタと対策が示されたようにも映り「対応が遅い」といった声が地元で聞こえる。喫緊の課題は不信解消か▼国難を前に、江戸で生きる決意をした和宮の歌は知られる。「惜しまじな君と民とのためならば 身は武蔵野の露と消ゆとも」。民らのため惜しむものなどない-。古今を問わず民の心を捉えるのは、そんな態度だろう。


今日の筆洗

2024年05月17日 | Weblog

 日本人を「米食民族」と呼ぶことがあるが、むしろ「米食悲願民族」と呼ぶのが正しい。稲作文化に詳しい渡部(わたべ)忠世さんが著書で語っていた。長い歴史で皆が常に米を食べられる時代は最近に限られる。民は長く、もっと食べたいと渇望してきたという▼なるほど米は年貢であり、武士への給料であり、権力の基盤であったが、農家でも白米は特別な日のごちそうだったと聞く。一回でも多く食べたいと願う私たちの祖先は可能な限り田を開いた。山の斜面の棚田は、日本人の米への執着の象徴らしい▼奥能登・輪島の日本海沿いの棚田「白米千枚田(しろよねせんまいだ)」で田植えが始まった。地震で亀裂が入るなどしたが、1004枚のうち被災を免れたり修復したりした約120枚で植える▼作業をする地元有志団体の代表は田植え開始の式でマイクを握ると、途中で言葉を詰まらせた。寛永期に用水が開かれたという千枚田。今年も何とか伝統をつなぎ、思いがこみ上げたか▼千枚田に限らず奥能登の田の被害は大きいが、今年は無理でも来年はと修復に励む農家がいる。米への執着が絶えぬ人の存在に希望を見出(みいだ)したくなる▼渡部さんの本によると昔、海を望む佐渡の棚田を守る老人は「田植えの日は酒や餅などを供え、田を開いた知る限りの先祖の名を空と海に向かって叫ぶ」と語ったという。奥能登のご先祖様たちも見てくれているだろうか。


今日の筆洗

2024年05月16日 | Weblog
 大学受験の合否を電報で伝える、いわゆる「合格電報」。諸説あるが、最初に登場したのは早稲田大学だったという。1956年のことと伝わる▼そのときの合格の電報文が「サクラサク」。名文句だろう。現在は大学がネットなどで発表するため、合格電報はすっかり廃れてしまったが、今でも「サクラサク」といえば合格を意味する言葉としてそのまま通じる▼不正をしてまで「サクラサク」を手に入れても残るのは後悔ばかりだろうに。早稲田大学の入試で眼鏡型の電子機器「スマートグラス」を使った受験生の不正行為である。警視庁は受験生を偽計業務妨害の疑いで書類送検する方針だそうだ▼試験中にスマートグラスで試験問題を撮影し、これをSNS上に流出させて解答を得る手口だった。この手の電子カンニングは過去にもあったが、スマートグラスまで登場したか。カンニングのハイテク化に大学側も頭を痛めていることだろう▼国立大学に落ち、不安から不正を思いついた-。そう話しているそうだ。分からぬでもないが、受験生は皆、同じ不安に向き合いながら必死に問題を解いている。自分ばかりはと怪しき眼鏡に手を出すとはあまりに寂しいではないか▼この受験生、外部から解答を得るには得たらしいが、結局は「サクラチル」の不合格だったそうだ。不正行為の先にスマートな結末なんぞ待っていない。
 
 

 


今日の筆洗

2024年05月15日 | Weblog
1948年の米大統領選挙に民主党でも共和党でもなく、第三政党の進歩党から出馬したヘンリー・ウォレス。その選挙戦は妨害との闘いだった▼ルーズベルト政権の副大統領だったが、冷戦前夜の当時にあってもソ連との協調を訴える急進派で民主党を飛び出しての出馬となった。ソ連を敵視する風潮の強い時代にウォレスの支持は伸びず、演説会では生卵やトマトを投げつけられる始末だった▼候補者の主張を聞く機会を有権者から奪うという点では生卵よりも悪質かもしれない。他の候補者の選挙演説を拡声器やクラクションでかき消す。選挙カーで追い回す。衆院東京15区補選で他陣営の選挙運動を妨害した疑いがあるとして警視庁は政治団体「つばさの党」の事務所などを捜索した▼妨害行為の映像を見て、これが日本の「今」なのかとふさぎ込んだ人もいるだろう。団体側は一連の行為を「表現の自由」と説明するが、政治活動から逸脱してはその言い分も通用しにくかろう。揺るがしたのは民主主義の大前提となる「選挙の自由」である▼ウォレスに生卵をぶつけた2人の少年に判事はこう言い渡した。「哲学者ボルテールの言葉を何度も書き写しなさい」▼言葉とは有名な「あなたの意見には反対だが、あなたがその意見を述べる権利は命をかけて守る」。東京15区での出来事をボルテールになんと説明すべきだろう。
 
 

 


今日の筆洗

2024年05月14日 | Weblog
イソップに太陽にまつわる寓話(ぐうわ)がある。なんと太陽が結婚するという。おめでたい話に動物たちが集まり、祝いの会を開いた。夏の盛りのころという▼カエルたちもやれうれしやと踊りだす。が、中の1匹がやめろという。「お祝いしている場合じゃない。太陽は独身時代でも、水たまりを干上がらせた。結婚して似た子どもができてみろ。どんな災難が起きるか」▼幻想的なオーロラの輝き。これも太陽のなせるわざだが、最近のお天道様の様子を見ればあのカエルのように心配顔となるか。普段は北極や南極などの高緯度に出現するオーロラが世界各地で相次いで観測されている▼日本では北海道や北陸などに現れた。「低緯度オーロラ」の原因は太陽表面上で爆発が起きる大規模な太陽フレア。このところ、観測史上最大規模の爆発がたびたび起きており、その結果、オーロラとは縁なき場所にも妖しい光を届かせた▼心配は太陽フレアが地球上の磁場を乱す磁気嵐の方である。通信衛星やGPSなどに悪影響を与え、最悪、大規模な通信障害などにつながる可能性がある▼11年周期の太陽活動は来年、極大期を迎える。建仁4(1204)年、赤気(オーロラ)を目撃した鎌倉歌人の藤原定家は「明月記」にこう記した。「奇にしてなお奇なるべし。恐るべし恐るべし」。「恐るべし」の太陽フレアを警戒し、対策を強めたい。
 
 

 


今日の筆洗

2024年05月13日 | Weblog
歴史的な世論調査の結果がある。1945年8月、米ギャラップ社による調査で、米国民に広島、長崎で原子爆弾が使用されたことの是非を尋ねている。原爆投下直後の調査である▼結果は容認する人85%、容認しない人10%。ほとんどが容認した。戦争を早期に終結させるためという当時のトルーマン大統領の説明が効いたか▼時代の経過とともに原爆の非人道性が認識され、原爆投下を容認する比率はかなり減ったそうだが、「本音」では今もさほど変わっていないのか。オースティン米国防長官とブラウン統合参謀本部議長。原爆投下が「世界大戦を終わらせた」との見解を示した▼上川陽子外相が米側に抗議したが、当然である。数十万人の命を奪い、大きな災厄を生んだ現実に目をつむり、原爆投下の正当性のみを語る言葉が悲しい▼恐ろしいのはこうした考え方が45年ではなく今も利用されようとしていることか。統合参謀本部議長に質問し、その言葉を引き出したのは共和党のグラム上院議員。パレスチナ自治区ガザでの戦いを終わらせるため、批判はあろうと米国はイスラエルへの武器支援をやめてはならない-。そう主張したくて、原爆投下の正当性を政府側に言わせたかったらしい▼市民の命の重さを無視した議論にうろたえる。広島、長崎、ガザ。どんな理屈をこしらえようと奪われて構わぬ命など一つもない。
 
 

 


今日の筆洗

2024年05月11日 | Weblog
サッカーの警告・イエローカードは何枚かたまると次の試合に出られない。誕生の契機は、1966年ワールドカップ(W杯)準々決勝イングランド-アルゼンチン戦という▼ドイツ人主審がアルゼンチン選手にドイツ語で退場を告げたが、選手は言葉が通じないことを理由に拒んだ。最後は応じるも審判の権威は傷ついた。明確に意図を伝えるため、信号をヒントにイエローカードと退場を命じるレッドカードが考案された▼沖縄の県立高校には校則違反の回数に応じ段階的に生徒を処分する「イエローカード制度」があると沖縄紙で知り驚いた。教師から理不尽に叱責(しっせき)された生徒が3年前に死を選んだ高校では違反1回目は注意、2回目は反省文、3回目は日記指導5日間と保護者呼び出しなど、4回目は訓告、5回目は停学…▼弁護士ら外部組織が生徒がものを言いにくい不寛容な制度と指摘した。この高校は廃したが、一部高校に残り県教育長は廃止も検討するという。確かに権威主義的にすぎる▼志あるサッカーの審判は語学を学び、選手との会話を厭(いと)わず、カードに頼らず試合を御する。Jリーグで笛を吹き、カード乱発で荒れた試合にした苦い経験もある家本政明さんは「審判は最終決定者である以上絶対なんだけど、絶対権力者とは違う」と著書で語る▼誰かが威張るだけではうまくいかないのは、学校も同じだろう。
 
 

 


今日の筆洗

2024年05月10日 | Weblog

 ベトナム戦争時、ナパーム弾の誤爆で服を焼かれ、裸で逃げる9歳の少女の写真が撮られ、優れた報道を称(たた)えるピュリツァー賞に選ばれた。世界の反戦機運を高めた1枚である▼撮影はベトナム出身の21歳のAP通信写真記者ニック・ウト氏。少女はやけどがひどく、撮影をやめバンに乗せ病院へ。命は助かった▼ニック氏にはAPの写真記者の兄がいたが、戦争取材中に27歳で死亡。遺志を継ぎ同じ道に進んだ(藤えりか『「ナパーム弾の少女」五〇年の物語』)▼今年のピュリツァー賞の特別賞に、特定の社や個人ではなくパレスチナ自治区ガザ情勢を取材する全ての記者らが選ばれた。「悲惨な状況下での勇敢な功績」があったという▼昨年12月配信の共同通信ガザ通信員ハッサン・エスドゥーディー氏の手記でも状況は分かる。20代。ガザで取材しエルサレム支局に伝える仕事で両親や兄もガザにいる。「16階にあるオフィスの窓からは空爆の炎や黒煙が見え、市民の泣き叫ぶ声が響く」。殉職した同業者もいる。さらに数カ月たち状況は深刻化したことだろう▼ニック氏の兄は生前、過酷な現実を写真で世界に伝えベトナムに平和を、と願った。ニック氏はナパーム弾の現場を撮った際に「この写真で、今度こそ戦争を終わらせてほしい」と言われた気がしたという。ガザにはあとどれぐらい、写真や記事が必要なのだろう。


今日の筆洗

2024年05月09日 | Weblog

 水俣病患者らが損害賠償を求める熊本地裁の第1回口頭弁論(1969年)で、裁判長は原告側の最前列にいた当時13歳の女性胎児性患者に法廷の秩序を乱したとして退廷を命じた。理由は声だった▼生まれつき話せぬ娘さんはあー、あーと声を出したそうだ。水俣病問題に取り組んだ作家の石牟礼道子さんが退廷は間違っていると書いた。その声こそが患者の置かれている現実。「唄だったかもしれぬ。泣き声だったかもしれぬ」。まぎれもなくその声はこの法廷にふさわしい声だったのに-と▼水俣の「声」をめぐる最近の国の仕打ちがやりきれぬ。水俣患者・被害者団体と伊藤信太郎環境相との懇談で被害者側の発言中、環境省の職員が一方的にマイクの音を切ったという。声を消した▼1団体3分間の発言時間を超過したためと環境省は説明する。時間に限りはあろうが、消したのは病の苦しさや、亡くなった家族を思う言葉の数々である。3分ではおよそ語り尽くせぬ胸の内である▼最高裁は水俣病の被害拡大を防止しなかった国の責任を認めている。国は被害者の声に真摯(しんし)に耳を傾けなければならない立場にあるはずだ。時間を超えたからと声を奪う冷酷な方法が国への不信を招く暴挙であることになぜ、気づかなかったのか▼伊藤環境相が被害者側に直接謝罪した。反省が続くのはまさか、3分間ばかりではあるまいな。


今日の筆洗

2024年05月08日 | Weblog
 「knock (someone) for 6」という英語の慣用句がある。相手をひどくやっつけるという意味だそうだ。knockはノックダウンなどのノックだろうが、6とは何か。英国伝統のクリケットに由来する。打球が境界線をノーバウンドで越えれば6点なので、大きな当たりを打たれた投手のショックを表している▼別の競技である。強烈な右ストレートが相手には「knock for 6」となった。世界スーパーバンタム級4団体タイトルマッチ。統一王者、井上尚弥がルイス・ネリを沈め、ベルトを守った▼井上がダウンを奪われたときは思わず声を上げたが、相変わらずのスピードとうまさに舌を巻く。ダウン後の冷静な対処もさすがである▼コラム書きの悪い癖か、試合と「6」をこじつけたくなる。試合が6日。決着は6回1分22秒。そして6年前である。2018年、山中慎介とのWBCバンタム級タイトルマッチ。当時王者のネリは2・3キロの恥ずべき体重超過でやって来た▼試合はそのまま行われ、ネリの勝利。当たり前である。ネリは無期限資格停止の処分を受けたとはいえ、日本のファンは6年前の苦々しさと、倒されても相手に向かっていく山中の姿を忘れてはいまい▼悪いことの後に良いことがあるたとえに「一の裏は六」という。ネリには悪いが、王者の出した「六」に気を晴らす。