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今日の筆洗

2020年09月05日 | Weblog
 古代ギリシャ、ローマの人たちは重要なことを決める際、会議を二度開いたそうだ。作家星新一さんが、文芸評論家荒正人さんに聞いた話としてエッセーに記している。まずは真剣に、次は酒を飲みながら、「ばかばなしムード」で。より完全な結論を得るための知恵という▼コロナ禍を受けたテレワークを経験して感じたのは在宅では難しい二番目のほうの大切さである。酒はないけれど、対面でのばかばなしムードの会話から、意外に多くのアイデアをもらっていたように思える▼在宅勤務を基本にする企業もあらわれているという。半面、最近の調査では「コミュニケーション不足」「部下の仕事ぶりが分からない」などの声が正社員から上がっていた。「在宅は週二、三日が最適」が多数の意見だったそうだ▼近刊の小林剛著『テレワークの「落とし穴」とその対策』(大空出版)が、悩みや思うに任せない現状を伝えていて興味深い。先行する米国では米ヤフーが数年前に在宅勤務をやめた▼ばかばなしの効果は分からないが、集団のほうが人は創造力に富むという理由であるそうだ。労働時間がかえって長くなった−などさまざまな日本の悩みも克服の取り組みなどとともに紹介されている▼通勤時間削減や生産性向上への期待も大きい在宅勤務である。どこまで踏み出すのか、思案のしどころが、訪れているようである。

 


今日の筆洗

2020年09月03日 | Weblog

「ヨーロッパ諸国を巻き込んだ三十年戦争は何年間、続いたか」。作家の井上ひさしさんが高校生の時、こんな試験問題が出たそうだ▼三十年戦争と言うのだからもちろん正解は三十年だが、どういうわけか、クラスの半分以上が間違えたそうだ。まさかそんな問題が出るはずがないと思い込んだのか。井上さんにいたっては「三十年戦争は百年続いた」と書いてしまった▼さて三十年ではなく、「六日間戦争」の話である。安倍首相が辞任を表明したのが八月二十八日。そこからわずか六日で後継の自民党総裁が事実上決まったといっても過言ではないだろう。昨日、出馬を表明した菅官房長官である▼選挙は水もの。投票が終わるまでは分からぬとおっしゃるか。その通りだが、党内七派閥の五派閥までが菅さんを支持している状況を見れば、よほどの醜聞でもない限り、菅後継は動くまい。「半沢直樹」でもこの状況からの「倍返し」はあきらめるだろう▼六日間戦争に見えるが、六日どころか相当前から後継は菅さんでと練られていたか。石破さんだけは後継にしたくない安倍さんの意向とそれに乗った党内各派。そうでなければ、これほど短期間に党員投票なしの総裁選で、後継は菅さんという流れはつくれまい▼出題「国民は開かれた総裁選を望んでいるでしょうか」。かくして自民党はこんな簡単な問題さえ間違えた。


今日の筆洗

2020年09月02日 | Weblog
米作家レイ・ブラッドベリの小説『何かが道をやってくる』(東京創元社)に世にも不思議なメリーゴーラウンドが出てくる▼そのメリーゴーラウンドは逆回転する。音楽の伴奏も逆回転。さほど不思議でもないか。けれども、それに乗った者は時間をさかのぼることができる。「逆行パレードが進むにつれて中年の男が青年になり、青年はさらに、あれよあれよという間に少年へと若返ってゆくのである」(大久保康雄訳)▼おそらく、それが現実に起きたのだろう。そんな空想をする。おととい閉園した練馬区の遊園地「としまえん」。九十四年の長い歴史に幕を閉じた。流れるプール、世界で最も古いメリーゴーラウンドの一つ「カルーセルエルドラド」に花火大会。気取りがなく、親しみやすい遊園地だった▼別れを惜しみ、大勢の人がやって来たのはやはり時間をさかのぼるためかもしれない。もちろんメリーゴーラウンドは逆回転しないが、「としまえん」とのお別れに、遠い昔にここへ連れてきてくれた親や一緒に遊んだ友の声を聞いた人もいただろう▼自慢のメリーゴーラウンドは別の場所で復活することを願い、保存管理するという▼<もう一度だけ 動き出せ メリー・ゴー・ラウンド 目を覚ませ>(山下達郎さん「メリー・ゴー・ラウンド」)。閉園に大昔の青年時代に聴いた歌を思い出し、しんみりする。

Tatsuro Yamashita - Marry-go-Round (メリー・ゴー・ラウンド)


今日の筆洗

2020年09月01日 | Weblog
 作家、永井荷風の筆名は「お蓮(れん)さん」という女性の名に由来するという話がかわいい。十六歳の時、入院した病院で、世話をしてくれた看護婦さんの名が「お蓮さん」▼少年は恋した。この恋はかなうことはなかったが、それを筆名とした。蓮(はす)の別名である「荷」。それになびく「風」だから荷風なのだろう▼筆名や芸名にはそれぞれに思いや逸話が隠れているが、関東大震災の九月一日になると思い出す芸名がある。荷風とは趣が異なり、ロマンチックな由来はない。演出家、俳優で、日本の現代演劇に大きな功績を残した「千田是也(せんだこれや)」。その芸名である▼千の田に正しさを意味する是。縁起の良い名にも見えるが、その実、芸名に隠れているのは傷ついた記憶である。記憶とは震災後の朝鮮人虐殺事件である▼朝鮮人が井戸に毒を投下するというデマが流れ、日本人が朝鮮人を襲った。その人は朝鮮人に間違えられ、千駄ケ谷で襲われた。諸説あるが、千田とは千駄ケ谷。是也とは「コリア」であり、襲った人間が発した「コリャー」という罵声なのだという▼関東大震災の発生したこの日は防災の日である。自然災害への備えを欠かすまい。避難経路や備蓄品の確認に加えて、「千田是也」の名もどこかにとめ置きたい。災害に取り乱した人間はデマを信じやすく、悲しいことに残虐な行為にも走りかねない。弱き心にも備えを。