古代ギリシャ、ローマの人たちは重要なことを決める際、会議を二度開いたそうだ。作家星新一さんが、文芸評論家荒正人さんに聞いた話としてエッセーに記している。まずは真剣に、次は酒を飲みながら、「ばかばなしムード」で。より完全な結論を得るための知恵という▼コロナ禍を受けたテレワークを経験して感じたのは在宅では難しい二番目のほうの大切さである。酒はないけれど、対面でのばかばなしムードの会話から、意外に多くのアイデアをもらっていたように思える▼在宅勤務を基本にする企業もあらわれているという。半面、最近の調査では「コミュニケーション不足」「部下の仕事ぶりが分からない」などの声が正社員から上がっていた。「在宅は週二、三日が最適」が多数の意見だったそうだ▼近刊の小林剛著『テレワークの「落とし穴」とその対策』(大空出版)が、悩みや思うに任せない現状を伝えていて興味深い。先行する米国では米ヤフーが数年前に在宅勤務をやめた▼ばかばなしの効果は分からないが、集団のほうが人は創造力に富むという理由であるそうだ。労働時間がかえって長くなった−などさまざまな日本の悩みも克服の取り組みなどとともに紹介されている▼通勤時間削減や生産性向上への期待も大きい在宅勤務である。どこまで踏み出すのか、思案のしどころが、訪れているようである。