米作家レイ・ブラッドベリの小説『何かが道をやってくる』(東京創元社)に世にも不思議なメリーゴーラウンドが出てくる▼そのメリーゴーラウンドは逆回転する。音楽の伴奏も逆回転。さほど不思議でもないか。けれども、それに乗った者は時間をさかのぼることができる。「逆行パレードが進むにつれて中年の男が青年になり、青年はさらに、あれよあれよという間に少年へと若返ってゆくのである」(大久保康雄訳)▼おそらく、それが現実に起きたのだろう。そんな空想をする。おととい閉園した練馬区の遊園地「としまえん」。九十四年の長い歴史に幕を閉じた。流れるプール、世界で最も古いメリーゴーラウンドの一つ「カルーセルエルドラド」に花火大会。気取りがなく、親しみやすい遊園地だった▼別れを惜しみ、大勢の人がやって来たのはやはり時間をさかのぼるためかもしれない。もちろんメリーゴーラウンドは逆回転しないが、「としまえん」とのお別れに、遠い昔にここへ連れてきてくれた親や一緒に遊んだ友の声を聞いた人もいただろう▼自慢のメリーゴーラウンドは別の場所で復活することを願い、保存管理するという▼<もう一度だけ 動き出せ メリー・ゴー・ラウンド 目を覚ませ>(山下達郎さん「メリー・ゴー・ラウンド」)。閉園に大昔の青年時代に聴いた歌を思い出し、しんみりする。
Tatsuro Yamashita - Marry-go-Round (メリー・ゴー・ラウンド)
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