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今日の筆洗

2017年10月23日 | Weblog

『セールスマンの死』などの米劇作家アーサー・ミラーは遅筆で知られた。奇妙な習慣のせいである。朝、起きる。仕事場へ出かける。昨日までに書いた原稿を見る。破り捨てる▼時間がかかるはずである。ミラーによると破ることで心の中に何か引っ掛かるものが生まれ、それを追いかけることで自分の考えをまとめることができるのだという▼おそれいる。何にせよ、時間をかけて進んできた道を捨て「振り出し」に戻るには、よほどの覚悟と理由がいる。そんな気分で総選挙の開票速報を見つめる。与党の勝利。有権者は安倍政権の継続を選んだ。政権交代という別の道をためらった▼疑惑、強引な政治手法。問題の多い政権である。看板のアベノミクスにしても景気回復の実感は一向にない。それでもせっかくここまできた道。有権者はもう少しだけ進めばと信じ、政権継続に賭けてみたのである▼北朝鮮情勢の嵐も迫る。別の道を探している場合なのかという不安もあっただろう。政権交代の受け皿となる野党は混乱気味でその実力を見極めにくく、有権者に別の道を選ばせるほどの勇気を与えなかったのも事実である。仕方なく、政権継続を選ばざるを得なかった有権者の複雑な表情を想像する▼安倍政権は支持された。しかしよく見た方がいい。有権者が書いた「支持」という文字はどこか苦しそうで歪(ゆが)んでいまいか。


今日の筆洗

2017年10月21日 | Weblog

 静岡大学の狩野芳伸准教授らは、広告のコピーを考える人工知能(AI)をつくった。数千ものコピーやことわざを学習したAIは、瞬時に膨大な数のコピーを作り出す▼このAIに「選挙」「投票」といったお題を与えたら、こんなコピーが生まれたという。<この国には、投票が足りない><国民を休んでませんか><親の意見と選挙は後で効く>。実に的を射たコピーではないか▼この国の選挙は、なるほど低調だ。前回は過去最低の52・6%。まことに<この国には、投票が足りない>と心配しているところに、台風の襲来だ▼米国には「共和党員は、雨を乞うべし」との言葉があるという。研究者が実際に過去半世紀の大統領選と天気の関係を調べたら、投票日の雨量が平年より二十五ミリ多いと投票率が1%弱落ち込み、共和党候補の得票率が2・5%上がると分かった▼ブッシュ対ゴアの激戦となった二〇〇〇年の選挙で勝敗を決したフロリダ州での票差はわずか五百余。投票日に局地的に降った雨が大統領選で決定的役割を果たしたようだと研究者は指摘しているが、さて台風は、この国にどんな風を吹かせるか▼静岡大のAIに「台風、投票」などの題でコピーを作ってもらったらこんな作品ができた。<人、動く。投票、変わる><走りが変わる。台風後が変わる>。どう変えるか、決めるのが、明日の一票だ。


今日の筆洗

2017年10月20日 | Weblog

 内戦が続く南スーダンやアフガニスタン。エボラ出血熱が猛威をふるった西アフリカ。国際的な医療支援団体「国境なき医師団日本」会長の加藤寛幸さん(51)は、世界各地の過酷な現場で働いてきた▼そんな加藤さんが「あれほどすさまじいとは…」と語るのは、ミャンマーからバングラデシュに逃れてきたロヒンギャの人々が置かれている状況だ▼この二カ月ほどで、五十万を超す人々が難民となった。見渡す限り広がるキャンプは、竹の骨組みにビニールシートをかけただけで、床もない。加藤さんが衝撃を受けたのは、そこで立ちつくす無数の人々の顔だったという▼「皆が皆、同じ表情なのです。不安を一切隠すことない顔。白目が大きいというか、ただ、ぼう然として…。どんな体験をすれば、あれほど多くの人がああいう顔をするのか」▼診療所を開くと、何百人もの列ができた。人々はせきを切ったように身の上話をしたという。村を焼かれ、逃避行の中で夫を殺され、その直後に出産したという若い母親。幼子を抱き「この子の母は殺された。どう育てれば…」と泣いていたおばあさん▼そういう人々が、飢えや病気の恐怖にさらされている。「感染症の予防など、今やらなくては手遅れになります」と加藤さんは医療支援のための寄付を呼び掛けている。(国境なき医師団日本 電話0120-999-199)


今日の筆洗

2017年10月19日 | Weblog

「怪物」の息の根を止めた。戦いに勝利した人びとはようやく訪れた平和に手を取り合って喜ぶ。ところが、である。「怪物」は密(ひそ)かに「卵」を残していた。誰もそれに気がつかぬ。観客がエッと驚いているところでエンドマークが出る▼こういうひねった終わり方をする映画はホラーなどによくあるが、観(み)ている方は落ち着かぬ。その物語は終わっていないではないか。もしも、その「卵」が孵化(ふか)すれば…▼新聞の見出しを見て、同じモヤモヤを覚える。「IS事実上崩壊」。過激派組織「イスラム国」(IS)が「首都」と称していたシリア北部ラッカが民兵組織シリア民主軍によって解放された。民主軍兵士の歓喜のVサインを掲げる写真がある。しかし、テロで世界を震わせたISとの戦いは国際社会の勝利で終わったのか▼無論そうではあるまい。最高指導者、アブバクル・バグダディ容疑者ら幹部の行方はつかめない。何よりも、テロの「卵」を抱えた人間は世界中に散らばったままである▼最近のパリでのテロ事件などを分析したジル・ケペル氏の『グローバル・ジハードのパラダイム』(新評論)は嫌イスラムへの反発や社会への不満、差別によって若者がテロに走る過程をあぶり出す▼テロの「卵」を温め、孵(かえ)すものが社会の中にある。それを突きとめ、取り除かぬ限り、「エンドマーク」はいつまでも現れまい。


今日の筆洗

2017年10月18日 | Weblog
第三次世界大戦後の世界を描いた英作家、ネビル・シュートの小説「渚(なぎさ)にて」。グレゴリー・ペック主演の映画をご覧になった人もいるか。こんな場面がある▼核攻撃によって北半球は壊滅したと思われたが、たまたま海底で難を逃れた原子力潜水艦が北半球から出ている電波を捉える。生存者か。潜水艦は電波を追いかけ、発信源にたどり着く。電波を出していたのはコカ・コーラの空き瓶。カーテンにくくりつけられた瓶が風に揺られモールス信号の機械をたたいていた-▼同じ発信源を追い求める話でもこっちは核戦争と絶望の空き瓶ではなく、天文学に新たな地平を開く歓喜の物語である。欧米の国際研究グループが一億三千万光年のかなたの重力波を観測し、その源が二つの高密度の天体「中性子星」合体だったことを捉えた▼観測の過程が画期的で聞いていてわくわくする。欧米の重力波望遠鏡が重力波を検出。その知らせに日本を含めた世界各国約七十の天文台が重力波の出元に望遠鏡をこぞって向けて、観測した▼「重力波が来たぞ」の半鐘を合図に人類全体の目が宇宙の一点に注がれ、同じ光(電磁波)を見た▼ノーベル賞に輝いた初の重力波の直接検出から、わずか二年でここまできたか。宇宙の謎に挑む人類の長い旅は重力波という「波」と争いなど無縁な連携、協力という「風」に乗って順調そうである。

今日の筆洗

2017年10月17日 | Weblog

 原節子さん主演の映画「青い山脈」など、日本映画黄金期の名映画プロデューサー、藤本真澄(さねずみ)さん(一九一〇~七九年)には、切ない伝説がある。その原さんに心を奪われ、かなわぬ恋に生涯独身で通したというのである▼ある対談で作家の山口瞳さんに真相を聞かれ「これは(自分が)惚(ほ)れてただけの話で」…。やはり原さんとなじみの深い小津安二郎監督と「独身協会」を結成していたことを認めている。ホレ抜いていたのは女優としてか、女性としてか。ある作品では原さんの起用に反対する原作者を粘り強く説得するなど、いじらしい逸話を残している▼藤本さんの「恋」とはだいぶ違う。米ハリウッドの大物映画プロデューサー、ハーベイ・ワインスタイン氏のセクハラ疑惑である▼被害に遭ったと訴えているのは女優やモデル。配役などに強い権限を握る映画プロデューサーは、明日を夢見る若い女優にとっては絶対に逆らえぬ存在だろう。その地位を利用して不埒(ふらち)な要求をしていたのか。おぞましい▼アカデミー賞受賞のプロデューサーだが、疑惑が事実なら、三流だと言いたい。藤本さんが助監督時代、原さんを立たせたままにして監督に叱られたそうだ。「女優が立っていたら、コンディションが崩れるじゃない。いい芝居ができないじゃない」▼女優を苦しめるだけの人間に良い映画など作れるはずもなかろう。


今日の筆洗

2017年10月16日 | Weblog

 アラン・ドロン主演の映画、「太陽がいっぱい」の原作などで日本でもおなじみのサスペンス作家、パトリシア・ハイスミスの原稿の書き方は変わっている。机に向かわない▼ベッドの上にすわり、そのまわりにたばこと灰皿、コーヒー、ドーナツを盛った皿を並べ、「胎児のような姿勢」で書く。楽しく書くための方法だったそうだが、傍(はた)からみれば、ベッドの上の不安定なコーヒーがサスペンスである▼この作家も普通には机に向かわない。アーネスト・ヘミングウェー。立って書いた。胸の高さの本棚の上に置いたタイプライターで毎日午前六時から正午まで。聞いただけで足が重くなる▼立って書いた「パパ」のしたり顔が浮かぶ最近の「座る」をめぐる研究である。米国の医学チームによると、あまり長時間座っていると早死にする危険が高くなるというのである▼こんなに楽な姿勢なのにと思うが、長期間の追跡調査の結果、運動習慣の有無や体格などに関係なく、一日に座る合計時間や一度に座る時間が長い人ほど死亡リスクが高くなったというから震える▼三十分座ったら立って体を動かすなどの「シット・レス、ムーブ・モア」(座る時間は少なく、運動はもっと)を提唱しているが、勉強に仕事に「椅子よさらば」とはいかぬところが難問で、実際、本稿、書き上げるのにいつもの二倍の時間がかかっている。


今日の筆洗

2017年10月15日 | Weblog

「悪魔の代弁者」と聞けば、ほとんどの人は論戦に勝利するためならば、どんな汚い手も辞さぬ底意地の悪い人物を思い浮かべるだろうが、さにあらず。悪魔という名とは裏腹に、その代弁者の役割は大切である▼ディベート(討論)などで、議論を深めるため、あえて多数派の意見に逆らい、反論する人をいう。元はローマ・カトリックの宗教用語。ある人物を「聖人」として認めるかどうかの審査会で、あえて、その人物がふさわしくないという立場から意見や論拠を述べる「検事」のことをそう呼んだそうだ▼なるほど、なにごとにおいても、吟味を尽くし、判断するためには意地の悪い悪魔やつむじ曲がりの「天(あま)の邪鬼(じゃく)」の目は必要であろう▼総選挙の投票日がいよいよ迫ってきた。おそらく、今のわれわれに求められているのは「悪魔の代弁者」になることではないだろうか。心に決めた党や候補が既にいらっしゃるかもしれぬが、人の良い目や優しい耳ではなく、アラを探す目と疑り深い耳で、その主張をもう一度、聞き直し点検したい▼事前の世論調査の結果によって、各党の予測議席などが報道されているが、現段階での傾向にすぎぬ。悪魔は流されることも同調することもなく、「それで本当に大丈夫なのかね」としつこく問い続けるはずである▼大切な一票である。こと選挙に限っては悪魔は有権者の友である。