【長広舌】…「よどみなく長々としゃべりつづけること」。これは「大辞泉」から引いているが、「長々」というあたりに編者のうんざりした気分を感じる。あまり良い意味で使う人はいない言葉かもしれぬ▼十日は総選挙の公示日である。いよいよ、本格的な「長広舌」の季節に入ると書けば、皮肉が過ぎるか。ちゃかすつもりは毛頭ない。政権選択、国の将来のかかる大切な機会である▼この「長広舌」。もともとは「広長舌」だったそうだ。それがいつの間にか、広と長がひっくり返って使われるようになったという▼興味深いのは「広長舌」が本来はありがたい仏教用語だったこと。仏の舌は広く長く、伸ばせば、顔面を覆えたほどで、その大きな舌によって「真実」を語ることができたそうだ。なるほど「舌先三寸」の三寸(約九センチ)ではないらしい▼本来良い意味だった、「広長舌」が「長々としゃべり続ける」の「長広舌」へと変化した理由はよく分からないのだが、辞書編集者の神永暁さんによると「長舌」(口数が多いこと)や「広舌」(無責任に大きなことを言うこと)と混同された可能性もあるという▼さて、各党党首や候補の発言が実現性のある真実の「広長舌」か、それとも人気取りの無責任な「長広舌」かを混同せずに聞き分けなければなるまい。「舌」の季節と書いたが、本当は「耳」の季節である。