青春期を謳歌(おうか)する若い人が、「アイ」という音を聞いて、連想する漢字といえば、心ときめく「会い」や「愛」なのかもしれぬ。されど、悲しい「遭い」のことを書かねばならぬ。「ユキ」と聞けば、三好達治の「太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ」の穏やかで温かみさえある雪を思いたいのだが、重く、冷たい雪のことを書かねばならぬ。栃木県那須町のスキー場で発生した雪崩である。高校生七人と教員一人が亡くなってしまった▼青春期。スキー場。笑い声が似合う年ごろで場所で一瞬のうちに奪われた生命を思えば、胸が塞(ふさ)がれる。家族、友人、学校関係者の悲しみは計り知れまい▼冒頭「アイ」と書いた。栃木や福島、新潟で古くから伝わる雪崩を意味する言葉なのだという。雪崩の中でも、特に、乾燥した新雪が下層の雪の上を滑り落ちることで発生する種類を指すというから表層雪崩である▼雪が強烈に押し合う様から「アイ」。漢字では「雪津浪」と書いて、そう読ませたいという。よほどおそれられていたのだろう▼今回の雪崩が「アイ」だったかはともかくも前日からのまとまった雪、四月も近く、上昇に向かっていた気温の組み合わせが雪崩を発生させやすくしていなかったか▼原因、メカニズムを徹底調査して、今後につなげなければならない。こんな「哀」は、二度と、誰にも味わわせたくない。
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