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今日の筆洗

2017年01月28日 | Weblog

 実際には読んでいないのに、読んだふりをしている本は、どんな本か? そんなユニークな調査を、英BBCが昨年実施した。一位は『不思議の国のアリス』で、二位がジョージ・オーウェルの『一九八四年』。確かに、どちらも「読んでいません」とは言いにくい歴史的な名作だ▼だが、『一九八四年』は「読まれぬ名著」という地位を返上するかもしれない。世界各国で突然、ベストセラーになり、出版社は増刷に追われている。どうも人々が貪(むさぼ)るように読み始めたらしい。名作が読まれるのは、実に結構なことであるが、これがトランプ政権のおかげだというからおもしろい▼大統領就任式の観衆をめぐり大統領報道官は「過去最多」と言ったが、それは事実に反する。観衆の数という単純な事実すら曲げるのかと追及され、政権幹部は言った。「“もう一つの事実”を示したのだ」▼明白な事実や数字を権力者が都合のいいように変え、信じ込ませようとする。それこそオーウェルが描いた世界ではないかと読者は飛び付いたのだろう▼わが本棚に鎮座してきた文庫本(高橋和久訳、早川書房)を取り出したら、止まらなくなった。名作を読了できたお礼に、トランプ大統領に有名な一節を献呈する▼<自由とは二足す二が四であると言える自由である。その自由が認められるならば、他の自由はすべて後からついてくる>

日本も1984みたいになってますがね。



今日の筆洗

2017年01月27日 | Weblog

 十六歳の少女が、自分の思いを手記に綴(つづ)ったのは、一年ほど前のことだ▼福島第一原発の事故のため、故郷の町を離れ、友だちと別れなければならなかったこと。車の中で寝泊まりしながら転々と避難しているとき、普段通りに暮らしている人々を見て思わず、「にくい」と思ってしまったこと▼岐阜の転校先では、いじめに遭った。靴に「福島に帰れ」と書いた紙を入れられたこともある。給食を配ると、「アイツがさわったから食べられない」と言われたこともある。そういうこともすべて書いた▼そうして、一度はこう踏ん切ったという。「元の福島での生活に戻れないものは戻れない。現実は現実。嫌なことがあっても事実として受け止め、逃げずにいこう」。だが、今でもやはり、「ずっと福島にいられたら」と思ってしまうそうだ▼そんな思いで踏ん張っている子が、どれだけいるだろうか。神奈川で、新潟で。福島から避難した子がいじめられていたことが明るみに出たが、その陰では、もっと多くの子どもがじっと声も上げずに耐えているのではないか▼そういう子たちに、何か言ってあげたいことはあるか? 少女に尋ねたら、こんな答えが返ってきた。「頑張れば何とかなる、なんてことは、気軽に言えません。ただ、話を聞いてあげたい。同情されるより真剣に受け止めてくれる方が、心の支えになるんです」


今日の筆洗

2017年01月26日 | Weblog

「人間が不幸なのは、自分が幸福であることを知らないからだ。ただ、それだけの理由なのだ」。ドストエフスキーは『悪霊』の中にそう書いた▼なるほど人間は自分の痛みや不幸には敏感な半面で、すでに与えられている幸せには気がつきにくい傾向があるかもしれぬ。傍(はた)から見れば経済的にも家族、人間関係にも恵まれた方が日々の生活を嘆くということはよくある▼この数字も本当はありがたいと素直に受け止めるべきなのかもしれぬ。何の数字かといえば昨年一年間の刑法犯の数。十四年連続の減少で戦後初めて百万件を割り込んだ(暫定値)というのだが、その割に犯罪が減った、日本全体が安全になったという実感がないと書けば、ドストエフスキーに叱られるか▼犯罪減にも穏やかな日本人の顔が浮かばぬのは、相変わらず紙面に並ぶ残酷で痛ましい事件のせいばかりではないだろう▼確かに防犯カメラに見とがめられやすい窃盗犯などは大幅に減った。一方で家庭内暴力や児童虐待などは増えている。いずれもカメラや人の目に触れにくい場所での犯罪。別のデータだが、もちろん学校でのいじめも増えている▼人をそそのかす悪魔は消えたのではなく、テクノロジーの目で封じられているにすぎぬと想像すれば、油断はできないし、実感のなさの理由か。しかも減ったとはいえ、なお約九十九万件の刑法犯である。