ある哲学者が四歳の孫と旅に出た。電車内で、哲学者はずっと本を読んでいたそうだ。相手をしてくれないので退屈した孫は仕方なく歌を口ずさみはじめた。<なんのために生まれて なにをして生きるのか><こたえられないなんて そんなのはいやだ>▼その歌を聴いたおじいちゃんは「何なんだ、これは」と驚いたそうだ。四歳の子がなぜ、こんな内容の歌を口にしているのだろうか▼成人の日である。二十歳になる人のほうがこれが何の歌かよくご存じだろう。テレビ主題歌「アンパンマンのマーチ」。作詞した「アンパンマン」の作者、やなせたかしさんが、この哲学者から手紙をもらったと書いていた▼子どもは屈託なくあの曲を歌えるが、大人はどうもどぎまぎしてしまうか。<なんのために生まれて>。大人といえども、その明確な答えは分からない。成人の日とは、その答えを探す出発点かもしれぬ▼何のためにかは分からずとも、こんなことをするために生まれてきたわけではないというのは気づきやすい。誰かを傷つける。誰かを困らせる。泣いている誰かに手を貸さない。それは間違っても、生きる目的とは関係がない▼こんなことはやるまい。そのおびただしきリストを逆の目印にして進めば、<なんのために生まれて>の答えに少しは近づけまいか。成人の日、おめでとう。ようこそ大人への旅路へ。