落語家の故・立川談志さんは食をおろそかにしない人で、田植えや稲刈りをするため、新潟まで足を運び続けた▼農家の人たちと汗を流した談志師匠曰(いわ)く「ああいう人たちの稼いだお金と、株式という机上だけでたたいてやったヤツとは、札の色を分けなくちゃならないと思いますね。こっちで稼いだのは三倍で使えるけど、あっちは三分の一しか価値がないと決めてしかるべし、と思うくらい」▼労働の質で得た札の色も変えろというのは荒唐無稽な話ではあるが、この言葉には暴論では片付けられぬ響きがある。ただ巨利を得るために世界を動く投機マネーと、日々の糧を得るために、もの作りなどに汗を流して得たお金の落差。そこに潜む矛盾を突く言葉だろう▼グローバル化の中で富裕層に極端に富が集中し、貧富の格差が広がり続ける。歪みを正すには賃金の上昇が欠かせぬが、日本の最低賃金は主要国の中で低水準で、独仏などの六、七割ほどにすぎない▼本年度は、これまで以上に引き上げられることにはなったものの、フルタイムで働いたとしても、安心した生活を送るには、まだまだ不十分な水準だ▼しかも、欧州では高校や大学の授業料を無償にしている国が多いが、日本の教育費は高い。賃金は低く抑えられ、子育てにはやたら費えがかかる。それが国際比較で見た、この国の姿。お札の色は、ため息の色か。
オランダの旧紙幣、キレイで一番印象に残ってます。
<世の中は澄むと濁るのちがいにて、福に得あり、河豚(ふぐ)に毒あり>。これも一種のシャレ、地口の類いか▼濁点の有無で意味が変わる単語を利用した言葉遊び。なるほど福と河豚、得と毒では大違いである。<世の中は澄むと濁るのちがいにて、人は茶をのみ、蛇は人をのむ>。茶と蛇。音が濁っただけで言葉の顔をがらりと変えるのが、なんともおもしろい▼擬態語、擬音語にもある。「しとしと」と「じとじと」、「しっとり」と「じっとり」はどうだろう。「日本語オノマトペ辞典」によれば「しとしと」「しっとり」は「適度な水分で全体がまとまって落ち着いている感じを示している」。一方「じとじと」「じっとり」は「しっとりよりも湿気の多い感じを示し、不快感が伴う」と、評判が悪い▼「じとじと」「じっとり」の梅雨が関東ではまだ明けない。昨年の梅雨明けは十日、平年は二十一日ごろなので遅い。過ごしやすい日もあったが、土用の丑(うし)の日も近いのに、まだ梅雨の最中なのかと考えるだけで気分が晴れぬ▼そのくせ、雨量はさほどでもない。利根川水系上流にあるダムの貯水率はあまり回復していない。水不足も心配である▼気分の悪い事件もあった。そう八つ当たりしたくなるほど、今年の梅雨は底意地が悪い。からっと明け、人の心を澄ませてくれまいか。八月の濁った「罰月」などごめんである。