四十年前の春、英政界に衝撃が走った。八年近く首相を務めたハロルド・ウィルソン氏が突然、辞意を表明したのだ。六十歳になったばかりでの唐突な辞任の理由は何か。さまざまな臆測が飛び交い、情報機関による陰謀説まで出た▼物忘れが激しくなり、思うように政務が執れなくなったというのが真相らしいが、本人はこう語ったという。「あまりに長い間、政治の場にいるので、同じ質問が何度も何度もめぐってくるが、新しい答えが見つからない。辞めどきだと思った」▼さて、この国の政治家はどうだろう。国会議員がいわくありげなカネを受け取っていたことが判明する。当然ながら経緯や理由が問いただされる▼すると、「記憶があいまい」「秘書のやったこと」「法的に問題はないが、返した」。判で押したように同じ答えだ▼先日も農相や自民党の農水族議員が、環太平洋連携協定(TPP)交渉がらみで海外出張するにあたり、養鶏の業界団体幹部から「餞別(せんべつ)」として現金二十万円を受け取っていたことが明らかになった。何とも豪気な餞別があるものだが、五カ月もたってから返却したという農相曰(いわ)く「(返すのを)事務所の人間が失念していたかもしれない」▼物忘れがひどく、同じ問いに同じ答えしかできなくなる。ウィルソン氏はきっぱり職を辞したが、この国の政界では、あまり問題にならぬらしい。
ハロルド・ウィルソン
Harold Wilson
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生年月日 | 1916年3月11日 |
出生地 | イギリス、ハダースフィールド |
没年月日 | 1995年5月24日(満79歳没) |
死没地 | イギリス、ロンドン |
出身校 | オックスフォード大学ジーザス・カレッジ卒業 |
所属政党 | 労働党 |
配偶者 | マリー・ボールドウィン |
在任期間 | 1964年10月16日 - 1970年6月19日 1974年3月4日 - 1976年4月5日 |
女王 | エリザベス2世 |
第14代 労働党党首
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在任期間 | 1963年2月14日 - 1976年4月5日 |
在任期間 | 1970年6月19日 - 1974年3月4日 |