東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2016年10月25日 | Weblog

 麻薬密売人役の売れていない俳優が一人で弁当を食べていると、刑事役の大物スターがやってきて隣に腰を下ろした。「いっしょに仕事がしたいから(芝居に)出して」▼一九七五年。麻薬密売人役は俳優の一方、演出家として名が売れだしていた蜷川幸雄さん。そして刑事役が平幹二朗さんである▼演劇ファンは落胆しているだろう。蜷川さんに続き、数多くの蜷川作品に出演しタッグを組んだ平さんが亡くなった。八十二歳。端正な顔立ち、堂々たる風姿。小声でさえ観客の胸に突き刺さってくる声。「王女メディア」「マクベス」「リア王」。傲慢(ごうまん)さも苦悩も狂気も自在に演じ分けた日本を代表する名優である▼最初の蜷川作品は「卒塔婆小町(そとばこまち)」(七六年)。醜い老女役。「平さんみたいないい男を汚したい」。汚す。二人の芝居のキーワードだったかもしれぬ。平さんの整った演技をいったん汚し、壊すことで、内なる感情を爆発させる。「安全な芝居はするな」「ガンガンやれ」。その演出が演技を深くし、磨いた▼長男の平岳大さんが幹二朗さん演出の作品に出演した時、こう罵倒された。「君のは芝居ごっこだ」。そして「今すごく怒っているでしょ。そういうのが必要なんだよ」。まるで蜷川さんである▼演出家は今、隣に腰を下ろした役者に何と声をかけるか。おそらくは「もったいないよ」のダメだしだろう。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿