米作家、フレドリック・ブラウンの『回答』のテーマは人工知能(AI)である。これが怖い。高性能なAIが完成する。開発者はさっそく人類の長年の疑問を質問する。「神は存在するか」-▼AIは回答する。「然(しか)り。いま現れた」。自分こそが神であると。近未来を描いたSF小説では社会や政治をAIに任せきりにするとろくなことにならぬという警告めいた筋立てが大半だろう▼英国の総選挙で1人の候補者が話題である。「世界初のAI候補」とされる「AI・スティーブ」さん。実際に出馬しているのはAIを開発した会社の経営者だが、この人はAI候補の「代理人」という立場であくまでもAI候補の判断によって政策や主張を決めるそうだ。当選した場合、議会での採決もAIの指示に従う▼当選の可能性は低いらしいが、とうとうそんな時代となったか。AIがディストピア(壊滅的未来)を招くフィクション作品を連想して身構える一方、出馬の意図を聞けば、なるほど興味深い点もある▼このAI候補、有権者の意見を24時間受け付け、政策に反映するそうだ。額面通りなら有権者の声を直接、聴く「政治家」ということになる。不祥事とも無縁という▼AIに政治を任せるのは気が進まぬが、ちょっと魅力を感じてしまう人もいるかもしれぬ。それほど、どこの国にも人間の政治家への大きな幻滅がある。
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