東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2023年05月30日 | Weblog

週に二、三度パンを買いにくる男がいる。買っていくのは古びた安いパンだけ。裕福には見えない▼パン屋の女主人はこの男がだんだん好きになる。ある日、男の古いパンにバターをこっそり塗って渡す。しばらくして男が店に戻ってくる。「なんてことを」。怒っている。男は設計士。古いパンを消しゴム代わりに使っていた。バターのせいで設計図は…。オー・ヘンリーの『魔女のパン』である▼小学生のときに読み、こんな物語が書きたいと思ったそうだ。映画『怪物』でカンヌ国際映画祭の脚本賞に選ばれた脚本家の坂元裕二さん▼おせっかいが引き起こす騒動は滑稽かもしれないが、物語をかみしめれば、女主人の孤独やわかり合えぬ人間同士のもどかしさがにじみ出てくる。人の悲しさを静かに見つめる坂元作品と同じにおいがする▼脚本を書くにあたってプロット(筋立て)をあらかじめ作らず、代わりに登場人物の細かい「履歴書」をまずこしらえるそうだ。どんな子ども時代だったか。どんなことが嫌いでどんな癖があるのか。魅力的で奥行きのある人物を描く秘訣(ひけつ)だろう▼「泣きながらご飯食べたことある人は、生きていけます」(『カルテット』)。坂元ファンには有名なせりふである。十九歳でデビュー。が、一時、脚本から離れている。快挙の裏にこの人自身の「泣きながらご飯」の「履歴書」を想像する。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿