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今日の筆洗

2023年03月15日 | Weblog
江戸川乱歩の『D坂の殺人事件』に色をめぐる奇妙な話が出てくる。古本屋で女性が殺される。二人の目撃者がいたが、証言が食い違う。一人は犯人の服装を白い着物だといい、もう一人は黒だったという▼ここから犯人は白と黒の縞(しま)模様の着物姿の人物ではないかという推理が出てくる。二人の目撃者は古本屋の店と座敷の境にあった格子越しに犯人を見ており、見る角度で犯人の着物が黒や白に見えるのではないかというわけだが、これがまるで的外れで、「犯人」は別にいた▼東京高裁が再審を認める決め手となったのは白か黒かではなく、「赤み」だった。一九六六年の強盗殺人事件で死刑が確定した袴田巌さんの裁判のやり直しを求める裁判である▼逮捕から一年後、袴田さんの勤務先のみそタンクから発見されたという着衣に残った、血痕の「赤み」。検察側はみそに長期間浸(つ)かっていても「赤み」は残ると主張していたが、高裁が実験結果を踏まえ、判断したのは「赤みは消える」。つまり袴田さん以外の誰かが後から着衣をタンクに隠した。死刑確定判決の証拠の土台が崩れた▼高裁は捜査機関による証拠捏造(ねつぞう)の可能性まで踏み込んでいる。震える。事実なら小説の見立て違いどころではなく、袴田さんをただ犯人にしたいという卑劣なトリックだろう▼そして、人生を奪った。八十七歳。一日も早い再審開始を待つ。
 
 

 


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