ローリング・ストーンズのミック・ジャガーさんがかつてこんなことを言った。「四十五歳になっても(代表曲の)『サティスファクション』をまだ歌っているくらいなら死んだ方がましだ」−▼一九七五年の発言で当時ミックさん三十二歳。発言を後悔しているだろう。四十五歳どころか八十歳近くなる現在も『サティスファクション』を歌っている。年を重ねた人間は若者の音楽を歌うのにふさわしくないと当時は考えていたのかもしれぬ。それは「ダサい」のだと▼その人の訃報に、ミックさんのかつての言葉を思い出した。結成は七五年。日本で最も古いロックバンドの一つ、ムーンライダーズのキーボード担当、岡田徹さんが亡くなった。七十三歳。長年のファンは寂しかろう▼『9月の海はクラゲの海』『Kのトランク』。ライダーズの中でも、とびきり独特で斬新な音を作っていらっしゃった▼昨年末のコンサート。岡田さんが手をひかれながらステージに立つ。ミックさん、やっぱり間違っていたよと思う。高齢だろうと体調が優れなかろうと演奏を続ける。それもまた不遇や逆境を歌い飛ばすロックの態度なのだ−と岡田さんの姿が言っていた気がする▼なじみの名ミュージシャンたちの訃報が今年は目立つ。ドラム・高橋幸宏、ギター・鮎川誠、キーボード・岡田徹か。ちょっと想像した後で、無性に悲しくなる。