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今日の筆洗

2023年01月13日 | Weblog

犬養毅首相が凶弾に斃(たお)れた一九三二年の五・一五事件は新聞も世論も下手人の海軍青年将校らに同情し、減刑嘆願運動が広がった。事件後の記事差し止めが解除され、裁判が始まると報道は過熱した▼政党や財閥の腐敗を憎む被告たちの言い分が伝えられた。法廷の様子をつづる記事の見出しは「級友からの贈物純白の制服姿 ズラリと並んだ十被告」。服の白さで動機の純粋さを強調する記事である▼弁護側が赤穂浪士の「義挙」を例に、被告の思いを訴えた記事の見出しは「傾聴の裁判長も双頬(そうきょう)に溢(あふ)れる涙 山田弁護士、火の如(ごと)き熱弁」。減刑を願い切断した指も寄せられた。判決の量刑は重くなく、世は政党が没し軍が台頭する。歴史家筒井清忠氏の著書に詳しい▼安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件で山上徹也容疑者がきょう、殺人罪で起訴される▼事件で旧統一教会と政治家のつながりが注目された。インターネットでは減刑を求める署名活動が行われ、英雄視する投稿もある。容疑者のもとには現金やファンレターも。宗教の問題は考え続けねばなるまいが、人を殺(あや)めた者への過剰な肩入れはやはり間違いと思える▼安直な勧善懲悪劇として五・一五事件が伝えられた当時は、新聞の部数伸長期だった。その勢いは今世紀のネット空間並みだったろうか。時代は変われど過熱の危うさが変わらぬことは、心に留めたい。