東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2021年10月19日 | Weblog
長州藩が外国船などを砲撃した下関戦争の直後の話なので一八六四年の秋のことか。長州藩の伊藤博文が英外交官、アーネスト・サトウに西洋式の夕食を用意した▼サトウが料理の感想を書いている。ウナギのてり焼き、スッポンのシチューはおいしかったが、ゆでたアワビと鶏肉は「論外」となかなか厳しい▼「素晴らしかった」と書いているのがデザートである。何を出したかといえば、柿。皮をむいた半熟の柿を四つに切って甘い米酒(みりん)に浸したものを出した。なるほど、おいしそうだ▼柿の季節である。「素晴らしかった」と言うサトウの感想に柿好きは胸を張りたくなるが、柿の良さは味ばかりではなかろう。この季節、柿の実がなっている里の光景を見れば、懐かしさに胸がいっぱいになるようなことがある▼「日本の秋は悲しいほど美しい」。俳優の森繁久弥さんが柿の実の光景について書いていた。終戦後、満州から帰国した時のことだそうだ。柿の実のなる家を見て「これが祖国というものだ」と一人うなずいていたそうだが、なんとなく分かる▼二週間ほど前にセミの声を聞いた。妙に暑い十月かと思えば今度は急に寒くなってきた。昨日の東京は十一月中旬並みの冷え込みだそうだ。秋が深まっていく。岐阜に住む人が赤い実をつけた柿の木の写真を送ってくれた。ちょっとすえた、においを思い出す。