TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「戒院と『成院』」7

2019年11月12日 | T.B.2000年

「そろそろ
 診察に出たかったりするかな?」

医師の問いかけに
『成院』は首を横に振る。

「いや、『成院』としては
 たった1年しか勉強していない。
 自分が患者だったら絶対嫌です」

絶対に、ぜーったいに、と
噛み締めて言い、
カルテを書く作業に戻る。

まだ勉強しますよ、という『成院』に
それは残念と医師は言う。

「君、ならば、
 もう大医師を譲っても良いんだけどね」
「冗談を」

「いやいや。でもそうか」

仕事の事では無いとすると、

「それじゃあ、
 なんのため息だい?」

「はい?」

「…………自覚無しときた」

えぇ?と『成院』は驚く。

「俺が?」
「うん」
「ため息?」
「そうそう」

あー、はぁ、と暫く考えた後、

「そう言えば、
 成院もよくため息ついていたな」
「大体は君の事でね」
「『成院』が板についてきたのかな」

違うと思うよ、と医師はカルテを取り上げる。

「少し『成院』を
 がんばり過ぎてるんじゃないか?」

「食べ物の好みから違っただろう、君たち」

「1人っきりの休みの日ぐらいは、
 好物を食べて、
 思うままに過ごして、
 少し運動とかしてみて
 ゆっくり眠ったらいいんじゃないか?」

「先生、それ」

バランスの取れた食事と
適度な運動と、充分な睡眠。

「医者がよく進めるやつ」

「医者だからね」

そんなの、普段から心がけてます、と
『成院』は答える。

それでも、どんなに健康に過ごしていても
病に罹るときはかかるし、
不健康な生活を、送って居るのに
必ず病になるかと言うと、そうでもない。

「後は、そうだな」

もう、俺の事はいいですよと
言いかける『成院』に
医師は言う。

「新しい恋人でも
 作ったらどうだい??」

「ほう!!」

今、お茶とか飲んでいたら
絶対吹き出していた。

「恋人、ねぇ」

ふうん、と
『成院』はどこか遠くを見る。

「君なら軽いもんだろ」
「そんな人聞きの悪い」

「いやでも、成院に恋人…………」

俺ならともかく、と
首をひねる。

「成院に恋人とか
 ちょっとイメージできない」


「結構酷いこと言うなあ」




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「琴葉と紅葉」35

2019年11月08日 | T.B.2019年


「西、一族……」

 山一族は、琴葉を見る。
 云う。

「武器は?」
「…………」
「訊いているのか」
「持ってない」

 彼らは互いに頷く。

「探しに来たのは、黒髪の西一族だな」
「……知っているの?」
「知っている」

 山一族は、琴葉を囲む。

「我々の村にいるからな」
「…………」
「来い」
「彼を、……助けて、くれたの?」
「助け?」

「…………」

「族長様の命だ」

「そう……」

 山一族は歩き出す。

「行くぞ」
「…………」
「どうした?」

「……ありがとう」

 琴葉も歩き出す。

 雨が降り続く。
 夜も更け、気温が下がる。

 琴葉は、山一族に続く。
 が
 思うように、進めない。

「急ぐぞ」
「夜の山は危険だ」
「走れるか?」

「……走れない」

「足が痛むのか?」
「平気っ」

 琴葉は目を細める。

 彼のことを思うと、これぐらい何ともない。

 見かねた山一族が云う。

「おい、肩を貸してやれ」
「平気だってば!」
「我々の時間も限られている」
「時間って何よ」
「急げ。時が経てば、族長の考えも変わらんこともない」

 山一族の村にいる西一族への扱いが、変わるかもしれない、と。

 琴葉は黙る。
 腕を、山一族が掴む。

 山一族は琴葉を抱えるように、山道を進む。

 どれぐらい歩いたか。

 しばらくして、

 明かり。

 山一族の村。

 琴葉は空を見上げる。
 雨が止んでいる。

 夜明けまでどれくらいか。

「こちらへ」

 琴葉は村を見渡す。

 西一族とは違う、景色。
 におい。

 別の山一族がやって来る。

「西一族が来たのね」
「黒髪の西一族を探しに来たらしい」
「ふうん」

 山一族の女性が、琴葉を見る。

「こちらは、現族長様の娘様だ」
「いいよ、紹介なんて」

 鼻であしらう。

「あんたは、まっとうな西一族のようだねぇ」
「あいつはどこにいるの」
「ふふ。こっちだよ」





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「戒院と『成院』」6

2019年11月05日 | T.B.2000年

ふ、と横目に晴子の姿を捉える。

村の中心地を歩いて居るのだから
こうやってすれ違う事もあるだろう。

今日は何の帰り道だろうか。

仲の良い女友達と果物の砂糖漬けを作ったり
集まって針仕事をしたり、
いつも通りの生活を送っているんだろうな、と
それを微笑ましく思う。

そんなおりに
晴子がこちらに顔を向ける。

「あ」

しまった、見つめすぎた、と
慌てて目を背ける。

どうしたって
一番に晴子に目が行ってしまう。
沢山の人混みの中で
すぐに見つける事が出来る。

「成院、成院ったら」

おぉい、と晴子が駆け寄ってくる。

逃げる訳にもいかず
どうしたんだ、と冷静を装う。

「成院、先日はごめんなさい。
 きちんとあいさつもしないで」

「いいや」

『自分』の一周忌、
墓参りに来てくれた時の事を言っているのだと気がつく。

まだ、自分の事を覚えていて、
悲しんでくれた事が嬉しくて、
申し訳無くて。
でも、
そこに居るのは自分じゃないと
どうして気付いてくれないんだと
勝手な事を考えて、

居た堪れなくなって
声もかけずに
その場を後にした。

「気にしないでくれ」

むしろ謝るのはこちらの方なのに。

「すまない、戒院のせいで晴子にも
 つらい思いをさせているよな」

いいえ、と晴子は首を振る。

「ねぇ、成院。
 少し時間ある?」
「時間?あるけれど?」

「それじゃあ一緒にお茶でもしましょう」

「え?いや、それは」
「今、時間あるって
 言ったわよね!!!」
「ぇえええええ」

なかば引きずられる様に連れて行かれる。

「おねえさん、このお茶2つ。
 お菓子とのセットで」

テキパキと入り口で注文を済ませ
はいはい、とそのまま奥の席まで連行。

意外と晴子はこういう所がある。
大人しい様で
決めた事はきっぱりしている。

「……………」

運ばれたお茶の香りを楽しんで
一口飲んだ後、
さてと、と晴子は『成院』を見る。

「元気してた?」

そう尋ねられるのも仕方ない。
『成院』は晴子を避けていたから。

「うん。
 悪かったよ、
 ずっと晴子にも声を掛けないままで」

「私こそ」

それから暫く思案して、
あのさ、と問いかける。

「ねぇ成院、
 あなた、医師になるの?」

「あぁ、聞いたんだ?
 まだ見習いで、医師になれるかは五分五分かな。
 新しく学ぶことが多くって」
「……そう。少し驚いた」

そうだよな、と『成院』は思う。

「戒院が、弟が病で倒れたから
 そう思う様になったのかも、な」

『戒院』の名前が出た時
晴子の表情が変わったのが分かる。

「でも、それでも、成院」

「無理してない?」
「無理なんて」
「ねぇ、たまには会って
 色々と話をしない?」

以前は3人でよく話していたじゃない、と
晴子は提案する。

魅力的な誘いだ。
戒院ならば喜んでいただろう。

けれど。

「いや、止めよう」

「え?」
「晴子はもう、戒院の事を
 忘れた方が良い」

『成院』は晴子を見ずに言う。

「別の人と幸せになるべきだ。
 戒院だってきっとそう思っている」

お茶に誘ってくれてありがとう。
そう言ってその場を後にする。

店を出て、とりあえず、と
その場を後にする。

家には帰る気分ではない。
職場である病院も違う。
全てを知っている医師とは
今は会いたく無い。

足は自然と墓地へと向かう。

『戒院』の墓。

ため息をついて
墓前に座り込む。

村人の多くは伝染病の全てを知らない。
戒院が助かっても
死ななくてはいけなかったとは
分からないだろう。

だから、以前と違うなと
思う事はあっても
入れ替わっているとは思わない。

分かっている。

それでも、
晴子に会うのは堪える。

誰が悪いのかというと分からない。
成院は変わりになったのに、
ここに戒院がいる事自体
生かされているのに、

「なんだか、少し、」

少しだけ。

「疲れたなあ」


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「辰樹と媛さん」8

2019年11月01日 | T.B.2019年

 木の葉が散る時期。
 この時期が過ぎると、ほんの少し、厳しい時期がやって来る。

「兄様、今日は何をするの?」
「今日は、だな」
「南に行く?」
「いや、いったん芋焼くか!」
「いったん!!」

 彼は手に持つものを見せる。

「おお!」

 まごうとなき、芋。

「すごい! すごいわ!」
「すごかろぅ!」
「初回から、いろいろ食べ過ぎている気がするけど!」
「この時期を満喫せねばなるまい!」

 彼はこっち、と、手を招く。
 彼女は彼に続く。

 田畑の道。

 彼女はあたりを見る。
 木の葉が舞う。

 彼が立ち止まり、声を出す。

「おーい!」
「?」

 彼女は彼が見る方向を見る。

「ここ場所借りてもいい!?」

 畑で作業をする東一族が顔を上げる。
 ふたりに気付く。

「何だ。毎年のあれか!」
「そう、あれ!」
「もちろん合点! 楽しみにしているよ!」

 収穫の終わった畑の隅に、彼は、枯れ葉を集めはじめる。
 彼女も真似をする。

「火を起こすのね」
「そう。落ち葉はたくさん集めるんだ」

 ふたりは、せっせと落ち葉を集める。

「兄様、こんな感じ?」
「いやいや、もっとだ」
「もっと? これじゃ足りないの?」
「当たり前だ!」

 彼はなぜだか、胸を張る。

「みんなの分を焼くからな!」
「みんなって?」
「家族と友だちと、……媛さんの家族も食べるだろう?」

 知り合いが多いと、大変なのである。
 彼女と彼は、落ち葉を集める。

「兄様、芋好きなの?」
「そうなんだよー、芋好きなんだよなー」

 彼は笑う。

 芋を水で濡らし、くるむ。
 落ち葉に火を付ける。

(よい子は大人の人とやろうね!)

「はあ、楽しみだなぁ」
「うんうん」

 彼はさらに落ち葉を集める。
 彼女は火を見守る。

「ねえ! もういいかな?」
「まだ!」
「兄様ー!!」
「まだだって!」
「これいつ出来るの!?」
「俺に任せろ!」

 鍋奉行ならぬ、焼き芋奉行。

 彼は集めた落ち葉を、横に置く。
 火加減を見る。

「よしよし」
「もう食べられる?」
「これは焼けてる」

 彼は、焼き芋を彼女に渡す。

「あっつ!!」
「熱いから気を付けろよ~」
「遅っ!!!」
「焼き立てなんだから、当たり前だろう」

 彼女は手のひらを、ふうふうする。

「おっ、うまそう」

 彼は焼き芋を半分に割る。
 ほくほくの中身が現れる。

「おいしそう!」
「うまいぞ!!」
「おいしい!」
「うまい!!」

 彼女と彼は、芋をほおばる。

「懐かしい味ー」
「なふふぁひい??」

 もぐもぐしながら、彼が訊く。

「何、懐かしいって?」
「判らないけど、懐かしい味」
「焼き芋が?」
「誰かにもらったのかなぁ」
「ふーん?」

 彼女は空を見る。

「空が、高い」
「だな!」

「兄様」

「何?」

「またやろうね!」
「もちろん!」





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