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「琴葉と紅葉」35

2019年11月08日 | T.B.2019年


「西、一族……」

 山一族は、琴葉を見る。
 云う。

「武器は?」
「…………」
「訊いているのか」
「持ってない」

 彼らは互いに頷く。

「探しに来たのは、黒髪の西一族だな」
「……知っているの?」
「知っている」

 山一族は、琴葉を囲む。

「我々の村にいるからな」
「…………」
「来い」
「彼を、……助けて、くれたの?」
「助け?」

「…………」

「族長様の命だ」

「そう……」

 山一族は歩き出す。

「行くぞ」
「…………」
「どうした?」

「……ありがとう」

 琴葉も歩き出す。

 雨が降り続く。
 夜も更け、気温が下がる。

 琴葉は、山一族に続く。
 が
 思うように、進めない。

「急ぐぞ」
「夜の山は危険だ」
「走れるか?」

「……走れない」

「足が痛むのか?」
「平気っ」

 琴葉は目を細める。

 彼のことを思うと、これぐらい何ともない。

 見かねた山一族が云う。

「おい、肩を貸してやれ」
「平気だってば!」
「我々の時間も限られている」
「時間って何よ」
「急げ。時が経てば、族長の考えも変わらんこともない」

 山一族の村にいる西一族への扱いが、変わるかもしれない、と。

 琴葉は黙る。
 腕を、山一族が掴む。

 山一族は琴葉を抱えるように、山道を進む。

 どれぐらい歩いたか。

 しばらくして、

 明かり。

 山一族の村。

 琴葉は空を見上げる。
 雨が止んでいる。

 夜明けまでどれくらいか。

「こちらへ」

 琴葉は村を見渡す。

 西一族とは違う、景色。
 におい。

 別の山一族がやって来る。

「西一族が来たのね」
「黒髪の西一族を探しに来たらしい」
「ふうん」

 山一族の女性が、琴葉を見る。

「こちらは、現族長様の娘様だ」
「いいよ、紹介なんて」

 鼻であしらう。

「あんたは、まっとうな西一族のようだねぇ」
「あいつはどこにいるの」
「ふふ。こっちだよ」





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