TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「琴葉と紅葉」36

2019年11月15日 | T.B.2019年



 琴葉は、山一族の女性に続く。

「あの黒髪には、また借りが出来たよ」
「借り?」
「うちの鳥を助けてくれたり、裏一族を追い払ってくれたり」
「裏?」
「まあ、西一族は知ることもないのだろうけど」

 もちろん、琴葉も知らないこと。

「無事なの?」
「無事だよ、不思議なくらいね!」
「助けてくれた?」
「手当てはやったから」

 山一族の女性は、村の中心の屋敷に、琴葉を招き入れる。
 屋敷の中を進む。
 ある部屋の中で立ち止まる。

「おっ、夜明けだ」

 その言葉に、琴葉も外を見る。

 日が現れる。

「久しぶりにいい天気になりそう!」

 云いながら、山一族の女性は扉を開ける。

「迎えが来たよ!」

 それだけ云うと、山一族の女性は琴葉の肩を叩く。
 そのまま、どこかへと行ってしまう。

 琴葉は、部屋の中に入る。

「…………」
「…………」

 琴葉は息をのむ。

 そこに、黒髪の彼が横になっている。

「大丈夫、なの……?」

 かなりの怪我をしているように、見える。

 彼は、琴葉を見る。
 けれども、視線は合わない。

「見た目よりは全然平気」
「でも……」
「身体が動くようになるまで、時間がかかるんだ」
「どう云うこと」
「無理をしたってこと」
「無理を?」
「もう少し待ってて」
「…………」

 琴葉は、彼の横に坐る。

「…………」
「…………」
「お、遅くなったけど……、迎えに来たから」
「ありがとう」
「治ったら、すぐに、……帰るわよ」
「うん」

 彼が云う。

「君が来てくれると思ってた」
「…………」

 彼が続ける。

「大変だったね、山道」
「……別にっ」
「足が、」
「いつだったか、北に迎えに来てくれたから!」
「お礼ってこと?」
「ああ。うん。まあ」
「そうか」
「…………」

「もし」

 彼が云う。

「このまま、西に帰らないと云ったら?」
「え?」
「もしもの話」
「何を、」

 琴葉は、口を結ぶ。
 目をそらす。

 そうだ。

 黒髪の彼は、西一族の村では煙たがられている。
 自分と同じように。

 狩りだって、利用されているだけなのだ。

 このまま、どこかへ行ってしまった方が、彼にとってはいいのかもしれない。

 ……でも、

 もし、そうなったら、……自分は?

 彼のように、村外で生きていく度胸はない。






NEXT