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「彼と彼女の墓」5

2017年11月17日 | T.B.2020年

「いらっしゃい」

 北一族の村の、花売りが云う。

「それとも、お帰りなさい、なのかしら」

 そう云って、笑う。
 続けて

「この前売った花は、誰にあげたの?」
「あげたと云うか」

 彼は答える。

「お墓に」
「ああ」
 花売りは頷く。
「そうだったの」

「…………」

「誰の、お墓なの?」

 花売りは続ける。

「家族? 友人? それとも、」
「…………」
「それとも……」
 花売りが云う。
「彼女、とか」

 花売りは彼を見る。

「判らない」

 そう、彼は答える。

「……判らない、か」

 花売りは息を吐く。

「おかしな話」
「そう?」
「そうよ」

 花売りは花を並べる。

「白木蓮の花なんて、すぐに散ってしまうのに」
「うん」
「ほかにもきれいな花はたくさんあるわ」
「うん」
「変な人」

 花売りが云う。

「また、花を買ってくれる?」
「ここの花なら」

 花売りが頷く。

「きっと、あなたの彼女も喜ぶわ」

 北一族の村の日が傾き出す。

 客の背を見送って、

 花売りは花を片付けはじめる。

 と、

 また、ほかの客。

「…………」
「何か用?」
「何?」
「何か用かと聞いたのよ」
「はっ、俺は客じゃないか」

「…………」

「誰だ」
「え?」
「今のやつ」
「ああ」

 花売りが答える。

「同じお客様よ」
「客?」
「花屋の、ね」

 その客は、鼻で笑う。

「わざわざ南一族が?」
「南?」
「南一族がわざわざお前目当てに、と云ったんだ」
「だから、花屋の客だと云ってるじゃない」
「それはどうだか」
「それに、」
「それに?」
「あの人は南一族じゃないわ」
「何?」
「私も南一族だと思っていたのだけど、」

 花売りは首を傾げる。

「東一族なのよ」
「東一族?」
 客は目を細める。
「なぜ判った」
「なぜと云われても……」

 客は舌打ちをする。

「東一族は義理堅いからめんどくさいんだよな」
「そう?」
「次は追い返せ」
「なぜ、あなたにそう云われなきゃならないの?」
「近付けるんじゃない」
「それは私が決める」

 その言葉をおもしろくなかったかのように、客は立ち去る。

 花売りはあたりを見る。

 店を閉める。




2020年 北一族の花屋にて

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