TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「涼と誠治」18

2017年11月24日 | T.B.2019年

 日が沈む頃、彼は病院へ向かう。

 西一族の、多くの家から昇る煙。
 皆、食事の支度をしている。

 この時間帯なら、多くの人に会わずにすむ。

 けれども、視界は悪い。
 足下がよく見えない。
 出来るだけ、ゆっくりと進む。

 途中

 何かの音。

 足下を見ていた彼は、顔を上げる。
 目をこらす。

 道の先に、誰かがいる。

 その誰かは、道の真ん中で何かを拾っている。

「…………」

 彼は地面を見る。
 果物が転がっている。

 誰かは、手際よく、落とした果物を拾う。

 彼は、誰か、を見る。

 誰かは、彼に気付く。
 黒髪である彼に、気付く。

「……っ!!」

「…………?」

「触らないで!」

 誰かは、彼の近くに転がる果物を拾い上げる。

「何で、こんなところにいるのよ!」

 遠ざかりながら

「気持ち悪い。どこかへ行ってしまえ!」

 そのまま、立ち去る。

 彼は動かない。

 地面を見る。
 もう、果物は転がっていない。

 あたりを見る。
 誰もいない。

 彼は、先ほどの言葉を思い出す。

 いつものこと。
 昔から云われてきたような、こと。

 彼は歩き出す。

 そう云えば

 いつだったか

 それとは違う言葉を云われたことがある。

 彼は首を傾げる。

 いつのことだっただろう。
 誰が、云ってくれたのだろう。

 忘れてしまった。



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