日が沈む頃、彼は病院へ向かう。
西一族の、多くの家から昇る煙。
皆、食事の支度をしている。
この時間帯なら、多くの人に会わずにすむ。
けれども、視界は悪い。
足下がよく見えない。
出来るだけ、ゆっくりと進む。
途中
何かの音。
足下を見ていた彼は、顔を上げる。
目をこらす。
道の先に、誰かがいる。
その誰かは、道の真ん中で何かを拾っている。
「…………」
彼は地面を見る。
果物が転がっている。
誰かは、手際よく、落とした果物を拾う。
彼は、誰か、を見る。
誰かは、彼に気付く。
黒髪である彼に、気付く。
「……っ!!」
「…………?」
「触らないで!」
誰かは、彼の近くに転がる果物を拾い上げる。
「何で、こんなところにいるのよ!」
遠ざかりながら
「気持ち悪い。どこかへ行ってしまえ!」
そのまま、立ち去る。
彼は動かない。
地面を見る。
もう、果物は転がっていない。
あたりを見る。
誰もいない。
彼は、先ほどの言葉を思い出す。
いつものこと。
昔から云われてきたような、こと。
彼は歩き出す。
そう云えば
いつだったか
それとは違う言葉を云われたことがある。
彼は首を傾げる。
いつのことだっただろう。
誰が、云ってくれたのだろう。
忘れてしまった。
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