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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「彼と彼女の墓」4

2017年11月10日 | T.B.2020年

「これ、が……?」
「そう。お墓」

 彼女はその石を見る。

「でも、これは……」

 彼女は戸惑う。
 そこにあるのは、東一族が象る墓石とは違う。
 本当に、ただの、石。

「母様の、お墓……?」

 彼女は片方の石を見る。
 数字だけが刻まれている。

 何かの日付。

「名まえがない、わ」
「うん」
「どうして、この石がお墓だと判ったの?」

「判ったからだよ」

「…………」
「きっと、君のお母さんが呼んでくれたんじゃないかな」
「母様が……」

 彼女が坐り込む。

 目の前の石。
 ……母親の墓を、見る。

「これは、確かに母様の生年だわ」

 彼女が、横に立つ彼を見上げる。
「本当に母様のお墓なのかな……」
「信じられない?」

 彼は、彼女を見る。

「だって、墓石が……」
「がっかりしたとか?」
「そうじゃなくて」

 彼が云う。

「きっと事情があって、墓石をとれなかったんだよ」

 彼は、もうひとつの石を指差す。

「そっちも、見て」

 云われて、彼女はその石を見る。

 ―― 小夜子 2002―2017

 そう、刻まれている。

「花が……」
 その墓に、きれいな花が供えられている。
「誰かが、このお墓に……」
「ね。これはただの石じゃない」
 彼は云う。
「お墓なんだ」
「…………」
「君のお母さんのお墓なんだよ」

 彼女は、うつむく。
 彼は立ったまま、彼女を見つめる。

「やっと、会えた……」

 彼女は微笑み、涙を流す。
 彼は、その様子を見守る。

「母様。お花を持ってくるわね」
 彼女は語りかける。
「父様も連れてくるからね」

 彼は、その言葉に目を閉じる。

「じゃあ、……」
「何?」
「行くよ」
「え?」

 彼女は顔を上げる。

「そんな急に」
「もう、君の母さんのお墓は見つかっただろう」
「でも、お礼を、」
「お礼をするほどのことじゃない」

 彼は手を出す。

 彼女は、彼の手を取る。
 立ち上がる。

 手をつないだまま、彼は、あたりを見る。

「君の迎えが来ているみたいだ」
「迎え?」

 彼は手を離し、歩き出す。

「また会える?」
「判らない」

 彼は振り返らない。

「また、ここに来るんでしょう」

 彼女が云う。

「この、もうひとつのお墓の元に」

 彼は答えない。



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