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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「成院と戒院と」4

2017年11月14日 | T.B.1997年

「すみません」

村を歩いていた成院と戒院は
声をかけられる。

「あぁ、昼間の」

南一族から旅行でやって来たという親子。
声をかけてきたのは母親だ。

「娘を見なかったかしら。
 ちょっと目を離した隙に
 姿が見えなくなって」
「いえ」

成院は答える。

「心配ですね。
 気掛けて見ておきます」
「ありがとう。
 夫も来た道を引き返しているのだけど、
 女の子だけどやんちゃな子で」

母親は気丈そうに振る舞っているが
心配なのだろう。
もう一人の子を抱えて、顔色は優れなかった。

「大丈夫です。
 すぐに見つかりますよ」

そう言って、二人はその場を離れる。

東一族は家族でなくても
よくお互いを見知っている。
知らない子どもが居たらすぐに声をかけるだろう。

だが、それが見つからないというのが
気に掛かる。

「ただの迷子なら良いが」
「……うーん」
「とりあえず、こちらからも
 何人かに声かけをしておこう」
「………」

成院の言葉に
戒院の返事はどこか歯切れが悪い。

「あぁ、しまったな」

どこかバツの悪い顔をして
戒院は呟く。

「戒院?」

「なぁ、あの子」

んん、と
戒院は頭を抱える。

「長い髪で
 頬の入れ墨が隠れるだろう」
「ああ」
「もし、東一族の衣装を着ていたらどうだ?
 加えてあの黒髪。
 恐らく外見からは東一族にしか見えない」

そこで、成院は
戒院が何を危惧しているのか悟る。

「砂一族、か!!」

まずい、と
成院は呟く。

東一族と長年敵対している一族は二つ。

そのうち一つは西一族。
だが、こちらは長い間停戦状態にあり
顔を合わせることすらない。

問題はもう一つ。
砂漠を挟んで隣接する砂一族。

領土を狙い攻め込んでくるのが多いが
一番の問題は
女子供を攫っていく事。

「攫われた、か」

「ただの思い過ごしならいいが
 あぁあ、着付け体験なんて
 勧めるんじゃなかったな」

まだそうと決まったわけではないが
二人は駆け出す。

「おい、門番はどうする?」
「誰か居ないかな。
 ん~、満樹が
 任務で外に出てなければ」
「なんでも満樹に頼むの良くないぞ」
「だって、あいつ
 なんだかんだで付き合ってくれるんだよ。
 いい奴だ!!成院と違って!!!」
「満樹に同情するよ。
 ……光院!!」

すれ違った又従兄弟に
成院は言う。

「少し場を離れる。
 後を頼む」

二人の様子に
光院は問いかける。

「……手伝おうか?」
「大丈夫だ。
 迷子を捜している。が、戻らなかったら援護を頼む」
「分かった」

「おいおい」

良いのかな、と
戒院は成院に言う。

「宗主の息子に
 門番頼むとか、ないわ」

「大丈夫、光院は
 そういう事は気にしないやつだし、
 武術の腕はある」

後で偉い人に怒られるのかなぁ、と
それも覚悟した上で
戒院は仕切り直す。

「失踪してからどれくらいだろう」
「両親の様子だと
 そう時間は経っていないように思うが」
「ならまだ砂漠は越えていないかもしれない」
「急ぐぞ!!」


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