TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「成院と戒院と」3

2017年11月07日 | T.B.1997年

その日は外部からの人の出入りは
多くも少なくもなく、
いつも通り。

成院と戒院は村の入り口と中心部を
数回行き来する。

案内という名目だが
どちらかというと
立ち入ってはいけない部分に入らないように
見張りの意味合いが強い。

「あ」

何度目かの往復の帰りに
戒院がふと声を上げる。

「なんだ、急に大声を」

「戒院、成院、お務め中?」
「よぉ晴子(はるこ)」
「あぁ、勤めの途中だが晴子は」
「私は針仕事の帰りなの」

ちょうど良かったわ、と
晴子が篭から何かを取り出す。

「これお菓子なんだけど、
 休憩中に食べて」
「ありがとう、晴子も帰り道気をつけて」
「えぇ、じゃあまたね」

あぁ、と手を振り帰す成院。

晴子の姿が見えなくなると
成院は少し面白そうに振り返る。

「戒院。
 おまえ、折角菓子を貰ったんだから
 お礼ぐらいちゃんと言えよ」

先程の会話の中で
戒院が話したのは「よぉ、晴子」のみ。

「いや、成院待て。
 なぁこれって、もしかして晴子の手作りかな?」
「気になるなら尋ねれば良かったじゃないか」
「無理――!!」

「お前は晴子の前だと
 途端にポンコツだな」

「言ったな」

「同じ言葉を返すぞ、成院」
「は?」
「お前だって杏子の事。
 いたぁあああああああ」

何か言い終わる前に
戒院は成院に腕をつかまれ
後ろに捻りあげられる。

「だから、杏子は
 そういうんじゃないって言ってるだろ!!」
「待ってお前
 照れ隠しの方向性が酷い!!暴力反対!!」
「だいたい、婚約者も居るんだし。
 こんな話しがどこかかから聞こえたら
 杏子が困るだろ」
「落ち着け成院。
 それな、ほとんどの村人が知って」
「お前が言いふらすからだろ」
「あ、痛い!!
 腕が曲がらない方に曲がりそう。
 医者は腕が命なんですけどおおおお」
「いや、まだ見習いだろ」

降参!!

と、戒院が叫ぶのを
近くを通りがかった村人が
いつも仲が良いわね~と眺めて通っていく。


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