TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「彼と彼女の墓」1

2017年10月20日 | T.B.2020年

 東一族の村を出ると、彼は大きめの外套を羽織る。
 彼が着ている東一族の衣装が、見えなくなる。

 彼は耳に触れ、飾りを外す。
 左頬に触れ、持っていた染料を塗る。

 黒髪の彼は、まるで南一族のような身なりになる。
 いや、そうかもしれない、が。

 彼は歩く。

 東から北へと延びる、道。

 途中、人々とすれ違う。
 東一族。
 北一族。
 それ以外の一族も。

 馬車が、彼の横を走り去る。

 彼は歩き続ける。

 日が暮れ、夜になり

 やがて、北一族の村が見える。

 商いが盛んな北一族の村は、夜が更けても灯りは絶えない。
 夜は、主に食事や酒を提供する店が目立つ。

 彼は、北一族の村へと入る。

 適当な店に入り、坐る。

 声がする。
 彼は顔を上げ、その方向を見る。
 近くの席の者たちが手を上げる。

 北一族、なのか。
 彼らは飲んでいる。

「おい。どこから来たんだ?」
「南から」
「西回りか? 東回りか?」
「東回りだ」
「そうか、東か」

 飲むか? と、彼らは杯を見せる。
 彼は首を振り、断る。

 彼らはさらに、質問を投げる。

「東はどうだった?」
「東の女には会えたのか?」

 この北で、東の女性に会えることは稀だからと、彼らは云う。

「いや、通っただけだ」

「何だ。見物はしなかったのか」
「店周りは?」

「していない」

 つまらない、と、彼らは惜しむ。

「せっかくだから様子を見て来いよ」
「東も、次の村長さんが大変らしいからな」
「今の、息子さんか」
「何でも、髪色が東の色ではないらしい」

 彼は、彼らを見る。
 けれども、その視線は合わない。

「今もその話が?」

「まあ、昔からよく知られている話だからな」
「東の息子さんの、髪色違いは」
「それで、そのまま次の村長に?」
「それが最近の話だと」

「話だと?」

「髪色違いの息子さんが村長になるか」
「甥御さんが村長になるか」
「もうひとり、誰かしら候補がいるんだ、とかも」
「へえ!」

「…………」

「誰かしらって、誰だよ!」
「判らねぇよ」
「また、近いうちに新しい情報が入るかもな!」
「どの一族も、次の村長が誰になるか、話題だから」

 彼らは、新しい酒を頼む。
 飲む。

「それで、」
「南一族の次の村長候補は誰なんだ?」
「女ってのは、本当なのか?」
「……あれ?」

 彼らは辺りを見回す。

 先ほどまでそこにいた南一族の

 姿はない。



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