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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「海一族と山一族」28

2017年10月10日 | T.B.1998年

「トーマ」

ミナトが、ここだ、と手を振る。

そこは森の奥行った所。
木々が茂り
光が遮られ、薄暗い。

「あいつ、この奥に入っていった」
「分かった」

トーマはミナトに礼を言い
辺りを見回す。

なんとなく、
そうでないかと思っていた。
恐らくここを目指しているのだろう、と。

中間地帯と呼ばれる場所。
海一族と山一族の間にある
不可侵の土地。

さらにその奥で
生け贄は最後を迎えるとされている。

「気をつけろよ」
「ああ、直に皆も来るだろうから
 ミナトはここで誘導してくれ」
「分かった」

トーマは駆け出す。

「山一族」

後に続こうとしていたアキラに
ミナトが声をかける。

「……なんだ?」
「俺はここから先は行けない。
 トーマを頼む」
「???」
「そういう決まりなんだ」

トーマに追いついたアキラが問いかける。

「どういう事だ?」

えっとな、と
なんとも説明しにくいようにトーマは答える。

「海一族は信仰心が強くて、
 神聖な場所には長や司祭以外は
 立ち入ってはならないと教えられている」
「ここは、そうなのか」

トーマは頷く。

「決まりを破ると、雲が日を遮り、海が荒れると言われている。
 漁は天候で大きく左右されるからな。
 ………山一族にはそういうの無いのか?」
「白い熊は、神の使いとか」

それで、と
アキラは言う。

「お前は立ち入りが許されているのか」
「長候補だからな」
「意外だ」
「だろう。俺も常々そう思っている」
「悪い意味で言った訳では」
「いいって、
 変な占いで選ばれただけだ」

占い。
そう口から出た言葉に、
トーマは考える。

「アキラ、お前
 魔術は詳しいか?」
「いや、俺は専門ではない」
「俺もだ。
 多少使える者は居るんだが、
 専門の北一族にはとても及ばない」
「魔術、が、どうかしたのか」

「どの一族も
 使う事が禁じられている魔法があるらしい」

長になるための教養として
決して潔白ではない事を
学ぶこともある。

「古い時代に出来た魔法だが
 倫理に反するという理由で」

使ってはいけない、だが
止めるための知識として。


「人の命を犠牲にして使う魔法だ」