TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「アヤコとセイコ」

2017年08月01日 | T.B.1962年

目を覚ます。

ここはどこだろう、と
辺りを見回すが
全く覚えのない場所に居る。

よく見ると
着ている服も自分の一族の物とは違う。

どこかの部屋に居る様だが
ここは高い位置にしか窓がない。

とりあえず部屋を出よう、と
立ち上がりかけて
盛大に躓く。

「???」

寝起きだから?
体が思うように動かない。

違う。

動かないのは足だ。

おそるおそる視線をそちらに向ける。

「ああ、そうか」

足に巻かれているのは包帯。
両足だが、
特に右足は感覚がない。

自分は矢を受けたのだった。

彼女はその場に座り込む。
這いつくばって進めば
扉まではたどり着ける。

でも、きっと
あの扉には鍵がかかっているし、
この足では逃げられない。

「………」

ぼうっと、
窓を見つめるが、
そこからは空しか見えない。

あっという間かもしれない
長い時間かもしれない
そうしていると、扉の鍵が外から開けられた。

「!!?」

入って来た青年は
彼女が起きていることに驚いている。

「おはよう。
 ここがどこだか分かる?」

彼女は首を横に振る。
彼が答えようとするが
それを制して彼女が尋ねる。

「私のような人は他にいるの?」
「他、とは?」
「私の近くに居た人は?」

いや、と
今度は彼が首を振る。

「あの時、あの場所で
 息があったのは君だけだ」

「私だけ」

「そう」

彼は持ってきた食事を
テーブルに置いて
彼女に問いかける。

「君、名前は?」

彼女は答えない。
答える事に、意味は無い。

だって、もう

「帰る場所は、ない、から」
「え?」
「……なんでもない」

「まいったな」

青年は少し困った様にして
暫く考えて言う。

「名前がないのは不便だから
 勝手に呼ぶよ。
 そうだな、」

青年が呼んだ名前は
全くの的外れだったが、

もう居ない彼の声に
少し似ていた。


END