TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「海一族と山一族」20

2017年08月15日 | T.B.1998年

「アキラ!!」

扉を開き、声をかける。

「大変だ」

肩で息をするトーマを
アキラが見やる。

「判っている」

その問いかけに、アキラが頷く。
この騒ぎだ、
気付かない方がおかしい。

「いったい何が……」

アキラは首を傾げている。

「どうした?」

「判らない」
「何が」
「ここまで、火が大きくなることだ」

確かに、と
トーマは頷く。
先日雨が降ったばかりだ。

木々も湿っているはずなのに
油を撒いているかのような火の広がり方。

「何かが、おかしい」
「ここまで、
 いろんな事が偶然に?」

まるで、何かが仕組んだように。

不安そうな表情を浮かべているカオリを見ながら
トーマは言う。

「村のことは気になるだろうが
 今は動くのは難しい。
 とりあえず、ここにいてくれ」

アキラにしても黙って見ているのは
もどかしいだろうが
混乱に乗じて動くには
外に人が多すぎる。

「俺は長の招集がかかっているから
 そこへ行ってくる」
「招集?」
「あれだけの火だ。
 うちの一族も見過ごせない」
「皆が集まるのか?」
「いや、上の方の者、というか」

アキラはトーマが
長候補という事を知らない。

「それについては、
後から説明するから」

「待て」

アキラは出て行こうとするトーマを止める。

「気をつけろ」
「気をつける、何に?」

「今、この騒ぎで
 海一族も浮き足立っているはずだ」
「そう、だな」

「見慣れない顔には気をつけろ。
 部外者か、諜報員、もしくは」

もしくは。

それ以外の何か。
災いの大元となっている
何か。

アキラは窓を開け
空に合図を送る。

「今のは何だ?」

良くは思わないかも知れないが、と
アキラは言う。

「うちの、山一族の鳥に
 上空を見晴らせる」

山一族は狩りで鳥を自在に操るという。

「いや、助かる」

トーマの背にアキラの声がかかる。

「気をつけろ」

振り向かず頷いて
トーマは外に駆け出す。



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