TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「辰樹と天樹」16

2016年03月11日 | T.B.2016年

 ひっそりとした砂漠に、砂一族が、ひとりだけ立ち上がる。

 その砂一族は、あたりを見る。

 大きな岩を見る。
 近付く。

「……あー、」

 岩陰を覗く。

「ここにいたー」

「……お前は、」
「あの子だけ帰したの? 天樹は帰らなかったのー?」
「……富和(ふわ)」

 岩陰に、天樹が倒れている。

 富和は再度、あたりを見る。
 天樹と富和以外、誰もいない。

 東一族も。
 砂一族も。

「失敗?」

 富和は、にこにこと笑う。

「いったいどうしたのよー。らしくない」
「…………」
「ああ。最後の砂の魔法に当てられたのね」
 富和が云う。
「人をかばったからなの? ますます、らしくない」

 富和は手を伸ばし、持っている刀を見せる。

「ほら」

「それは、」
「あんたの刀」

 富和が云う。

「拾っておいてあげたわ」
「…………」
「私ってば、親切!」

 富和は、天樹に近付く。
 両手で、刀を持つ。

「さあ。あんたの刀の切れ味」
「…………!!」
「試してみようかなー」

「うっ……!」

 富和の持つ刀は、天樹の身体に刺さっている。

「うふふ」

 富和は笑う。

「あんたに切られた砂一族のみんなも、痛かったと思うよー」

 富和は、手に、力を込める。

「ほら。痛いんなら、少しは東の情報を出しなさいよ」
 富和は笑顔のまま。
「泣いて、ごめんなさいとか。見てみたいわー」

 天樹は顔をしかめる。

「まずは、あんたの真名を教えなさい」
「…………」
「天樹、は、偽名だってこと判ってるんだから」
 天樹は、目を閉じる。
「偽名を使うってことは、東では高位と云うことね」
 ほら、と、富和は、持ち手を変える。
「親は誰? 宗主直結かしら?」

 天樹は答えない。

「天樹ぃ」
 富和は、さらに刀を握る。
「気絶する前に、早く話しなさいよ」

 天樹は、答えない。

「……あんた、死ぬつもり?」

 天樹は苦しむ。
 けれども、何も云わない。

 富和は目を細める。

「何なのよ、東一族は!」
 苛立つ。
「嫌い、本当に嫌い! 大嫌い!」

 富和は、刀を棄てる。

 天樹は呻く。

「ふん」

 富和が云う。

「じゃあ。とりあえず、砂にでも行く?」

 倒れている天樹を、富和は見下ろす。
「うふふ。どんな毒を試してみようかしら」
 鼻で笑う。
「どうせ、逃げられやしないんだから」
「そう思う?」

 天樹は、富和を見る。

「そう思うって?」

 天樹の言葉に、富和は目を細める。

「どう云うことよ」
 富和が云う。
「転送術なら、さっき、もうひとりの子に、」

「こう云う、こと」
「……?」
「刀、ありがとう」
「…………!!」

 発光。

 瞬間。

 富和の目の前から、天樹の姿が消える。

「……っ!」

 富和は思わずあたりを見る。
 誰もいない。

「く、そっ……!」

 転送術。

 もうひとつ、彼は準備をしていたのだ。

 富和は、悔しさのあまり、岩を叩く。



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「燕と規子」6

2016年03月08日 | T.B.1962年

燕の妻が村に嫁いで来たのは
東一族との争いが始まる前だった。

彼女は自分の名前は
花から貰っていると言った。

「春に咲く花なの。
 西一族の村にはあるかしら?」

無いなぁ、と
燕は応えた。

「あまりこちらでは見かけない。
 山一族の村にはあるんだ?」
「時期になると山が一面
 その花の色に染まるのよ」
「それじゃあ
 庭に苗木でも植えようか」

「ありがとう。嬉しいわ」

遠く離れた村でも
故郷の花でもあれば
少しは気が晴れるだろう。

「貴方は、鳥の名前から?」
「そのまんまだよ。
 まぁ、こちらではあまり男には使わない」
「そうなの?」
「悪い意味で使われるからね」

付けた親の気は知れない。
燕の瞳と
この鳥の翼の色が同じだから
そこからとったのかもしれない。

西一族にあり得ない色。
母親は特に
燕の事を嫌っている。

雰囲気が悪くなったな、と
燕は笑顔を見せる。

「ただ、この鳥は好きだから
 実は気に入っているんだ」
「それじゃあ、
 名前が嫌いな訳じゃないのね」

良かった、
貴方のこと名前で呼べるわ、と
彼女が言う。

「それに山一族では
 その鳥、縁起物なんだから」
「……縁起物」
「そう家が栄えるって、
 とっても貴重な品」
「……食べるのか?」

「食べるわね!!」

えぇえ、と
顔を青くした燕を
彼女は笑う。

「大丈夫、
 食べるのは巣の方よ」

「巣ぅ!?」
「美味しいのよ。
 食べたら分かると思うけどな」

空元気な所もあるのだろうが
そうやって話す彼女を強いな、と
燕は思った。

出来る限りの事はしてあげたい。

それと同時に
酷い事だと分かりながらも燕は言う。

「ずっと大切な人がいるんだ」

彼女には
正直に話して置きたかった。

「勝手に思っているだけ、
 それに
 家族を見守るような気持ちだけど」

ただ、幸せになって欲しいと
遠くから眺めているだけで良い。
そんな人。

「俺がそんな表情をしていたら
 怒ってくれ」

しばらくして彼女が言う。

「周りが決めた結婚だもの
 そういう事はあるわ」
「ごめんな、
 でも、
 ちゃんと君を一番に選ぶから」
「そう言ってくれただけでも
 充分よ」

ありがとう、と
燕が握った彼女の手は
もしかしたら少し震えていたかもしれない。

「……」

燕は目を覚ます。
久しぶりに自宅のベッドで迎えた朝。
ゆっくりと眠れたことで
夢を見たのだと自覚する。

あれは半年前の事だ。

「あぁ、起きたの。
 ご飯出来ているわよ」

彼女が寝室を覗き込む。

「おはよう。
 すぐに行くよ」

燕はベッドから抜け出す。


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「辰樹と天樹」15

2016年03月04日 | T.B.2016年

 何人かの砂一族が倒れている。

 けれども、砂一族は笑う。

「浄化薬持っているの」
「だーれだ」
「誰かなー」

 おもしろそうに。

「東の畑の毒」
「広がっていくねー」
「大変だねー」

 辰樹は天樹を見る。

「どうする?」

 天樹は、砂一族を見回す。

 ふと

 ひとりの砂一族を指差す。

「あいつだ!」

 それを合図に、辰樹が走る。

「げっ」
「ばれた!」
「ばれた!!」

 その砂一族に、辰樹が追い付く。

「浄化薬を出せ!」

「ひっ!」

 辰樹は、砂一族の懐に手を入れる。

「お前っ!」

 別の砂一族が、辰樹に手を伸ばす。
 が
 すぐに倒れる。

 天樹の矢が、当たっている。

「これだ!」

 辰樹は紙を掴む。

 浄化薬ではない。
 けれども、浄化薬の作り方が記された、紙。

「おいっ!」
「返せ!」
「もう一度、魔法だ!」

 辰樹は、後ろに飛ぶ。

 走る。

「これ以上は不要だ!」

 天樹が叫ぶ。

「撤収するぞ!」
「判った!」

 と

 答えた辰樹が、ふらつく。

「!!?」

 慌てて、天樹が辰樹に駆け寄る。

「どうした?」

 天樹は、辰樹の腕を見る。
 血が、ほんの少し流れている。

「大丈夫、たいしたことない」
「いや、これは、」

 血が流れている。
 つまり、
 その傷から、毒が入っていると云うことだ。

「辰樹、急げ!」

 天樹は辰樹を立ち上がらせる。

 最初に準備しておいた、転送術の場所へ。

「走れ!」
「…………?」
「辰樹?」
「…………」
「おい、しっかりしろ!」
「…………」
「しびれるか!?」

 辰樹は目を閉じている。
 天樹は、辰樹を抱え、走る。

「待て、東一族!」
「帰すんじゃないぞ!」
「動くな!」

 砂一族の魔法が作動する。

 天樹も、紋章術を作動させる。

 が、間に合わない。

 砂埃。

 勢いで、天樹は倒れる。
 刀を落とす。
 すぐに顔を上げ、辰樹を見る。

 その先に倒れた辰樹がいる。

 ちょうど、転送術の上に。

「辰樹!」

「…………」

「辰樹! 聞こえるか?」
 天樹が云う。
「その紙を持って、先に帰れ!」
「…………!?」

「行くぞ! 東一族村内へ!」

 発光。

「うっ!」
「!!?」
「なんだ、なんだ!?」

 すぐに、暗闇。

「何が起きた!?」

 砂一族の声が響く。
 そこには、誰もいない。

「……いないじゃん」
「なーんだ」
「東に逃げ帰ったか?」

 静まりかえった砂漠に、散り乱れた砂一族が姿を現す。

「お前、逃げ帰ったんじゃないだろ!」
「結局、浄化薬の作り方、盗まれたじゃん」
「あーあ」

 そして

 その砂一族たちは、順番に姿を消していく。

「結果、砂の負け、だし」

「見張りを固めろよ」

「次は何の毒を作ろうかなー」

 …………

 …………

 再度、静寂。



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「燕と規子」5

2016年03月01日 | T.B.1962年
「あら。燕じゃない」

燕に気付いた規子は
手をあげて応える。

「生きて会えてなによりだ」
「案外しぶといのよ、私」

規子と燕は
いつも通りの軽口を叩く。

「森の方はもう良いの?
 長い事出ていたじゃない?」
「一時的な交代だってさ」

二人は並んで歩く。
こうやって話すのは一月ぶり。

元々西一族は
男女共に狩りに出る。
武器の扱いにも慣れているし
実力があれば戦場にかり出される。

規子も燕も。

「交代が出来るって事は
 状況は優勢なのか?」
「どうかしら」
「戦いが長引くほど
 色々と、分からなくなっていくな」

何人の命を奪ったのかも。

「ねぇ」

規子が言う。

「以前私と班を組んでいた
 兄妹を覚えている?」

「あぁ、うん」

返事をしたが
燕はその兄妹についての
記憶が曖昧だった。

「矢を受けて死んだわ」
「……」
「最初に当たったのが兄の方。
 慌てて飛び出した妹にも
 矢が飛んできたの」

「規子は近くに居たんだ」

そう、と規子は頷く。

「弓矢が得意と言っても、
 私には飛んできた矢をはじき返すことは出来ない」

「仕方ないよ」

その兄妹は運が悪かったのだ、と
哀れむ気持ちは燕にもある。

けれど

矢に当たったのが
規子でなくて良かったと
まず、そう思った。

「だめね、こんな話。
 久しぶりに会えたのにね」

規子は、そうだ、と
燕に向き直る。

「しばらくは村に居るの?」
「次の招集がかかるまで」
「こんな状況だけど、
 近いうちに集まれたらいいわね。
 みんなでご飯を食べましょうよ」

ああ、と
燕は頷く。

「兄さん達にも声をかけるよ」

「良かった。
 楽しみが増えたわ」

もう陽は沈んでしまい
辺りは薄暗くなっていく。

「送るよ」
「ここで良いわ。
 早く帰ってあげなきゃ。
 奥さん待っているわよ」

「……そうだな」

「じゃあ、またね」

「規子」

燕は規子を呼び止める。

「規子は、山一族の村に行った方が良い」
「……またその話?」
「規子は選ばれたじゃないか。
 山一族との協定の証。
 西一族の代表だ」

燕の嫁が、
山一族から選ばれたように。
西一族からは規子が選ばれた。

「山一族には
 きちんと行くから大丈夫よ」

「そうじゃないだろ。
 規子は村の犠牲になるのだから
 せめて、戦いから離れて
 平穏に暮らすべきだ」
 
「犠牲になっているというなら
 あなたの奥さんだってそうよ」

そういう事じゃない、と
言葉を詰まらせる燕に
規子は言う。

「ありがとう、
 心配してくれて」

規子がいずれ
村を去るのだとしたら
せめて今のうちにと燕は想う。

いつもこの話は
はぐらかされて終わりだ。
燕は規子の背中を見送る。

「あら、泣きそうな顔。
 大丈夫?」

帰宅した燕を彼の妻が出迎える。

「会えた?」

燕は頷く。

「そう、よかったね」

彼女がぽんぽん、と
優しく背中を叩いてくれるので
燕はいよいよ泣いてしまうかと思った。

「大丈夫よ。
 貴方の大切な人は、誰も死なないわ。
 きっと、戦いも、もうすぐ終わるから」

そう、
規子は燕にとって
大切な人だった。


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