ひっそりとした砂漠に、砂一族が、ひとりだけ立ち上がる。
その砂一族は、あたりを見る。
大きな岩を見る。
近付く。
「……あー、」
岩陰を覗く。
「ここにいたー」
「……お前は、」
「あの子だけ帰したの? 天樹は帰らなかったのー?」
「……富和(ふわ)」
岩陰に、天樹が倒れている。
富和は再度、あたりを見る。
天樹と富和以外、誰もいない。
東一族も。
砂一族も。
「失敗?」
富和は、にこにこと笑う。
「いったいどうしたのよー。らしくない」
「…………」
「ああ。最後の砂の魔法に当てられたのね」
富和が云う。
「人をかばったからなの? ますます、らしくない」
富和は手を伸ばし、持っている刀を見せる。
「ほら」
「それは、」
「あんたの刀」
富和が云う。
「拾っておいてあげたわ」
「…………」
「私ってば、親切!」
富和は、天樹に近付く。
両手で、刀を持つ。
「さあ。あんたの刀の切れ味」
「…………!!」
「試してみようかなー」
「うっ……!」
富和の持つ刀は、天樹の身体に刺さっている。
「うふふ」
富和は笑う。
「あんたに切られた砂一族のみんなも、痛かったと思うよー」
富和は、手に、力を込める。
「ほら。痛いんなら、少しは東の情報を出しなさいよ」
富和は笑顔のまま。
「泣いて、ごめんなさいとか。見てみたいわー」
天樹は顔をしかめる。
「まずは、あんたの真名を教えなさい」
「…………」
「天樹、は、偽名だってこと判ってるんだから」
天樹は、目を閉じる。
「偽名を使うってことは、東では高位と云うことね」
ほら、と、富和は、持ち手を変える。
「親は誰? 宗主直結かしら?」
天樹は答えない。
「天樹ぃ」
富和は、さらに刀を握る。
「気絶する前に、早く話しなさいよ」
天樹は、答えない。
「……あんた、死ぬつもり?」
天樹は苦しむ。
けれども、何も云わない。
富和は目を細める。
「何なのよ、東一族は!」
苛立つ。
「嫌い、本当に嫌い! 大嫌い!」
富和は、刀を棄てる。
天樹は呻く。
「ふん」
富和が云う。
「じゃあ。とりあえず、砂にでも行く?」
倒れている天樹を、富和は見下ろす。
「うふふ。どんな毒を試してみようかしら」
鼻で笑う。
「どうせ、逃げられやしないんだから」
「そう思う?」
天樹は、富和を見る。
「そう思うって?」
天樹の言葉に、富和は目を細める。
「どう云うことよ」
富和が云う。
「転送術なら、さっき、もうひとりの子に、」
「こう云う、こと」
「……?」
「刀、ありがとう」
「…………!!」
発光。
瞬間。
富和の目の前から、天樹の姿が消える。
「……っ!」
富和は思わずあたりを見る。
誰もいない。
「く、そっ……!」
転送術。
もうひとつ、彼は準備をしていたのだ。
富和は、悔しさのあまり、岩を叩く。
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