TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「燕と規子」6

2016年03月08日 | T.B.1962年

燕の妻が村に嫁いで来たのは
東一族との争いが始まる前だった。

彼女は自分の名前は
花から貰っていると言った。

「春に咲く花なの。
 西一族の村にはあるかしら?」

無いなぁ、と
燕は応えた。

「あまりこちらでは見かけない。
 山一族の村にはあるんだ?」
「時期になると山が一面
 その花の色に染まるのよ」
「それじゃあ
 庭に苗木でも植えようか」

「ありがとう。嬉しいわ」

遠く離れた村でも
故郷の花でもあれば
少しは気が晴れるだろう。

「貴方は、鳥の名前から?」
「そのまんまだよ。
 まぁ、こちらではあまり男には使わない」
「そうなの?」
「悪い意味で使われるからね」

付けた親の気は知れない。
燕の瞳と
この鳥の翼の色が同じだから
そこからとったのかもしれない。

西一族にあり得ない色。
母親は特に
燕の事を嫌っている。

雰囲気が悪くなったな、と
燕は笑顔を見せる。

「ただ、この鳥は好きだから
 実は気に入っているんだ」
「それじゃあ、
 名前が嫌いな訳じゃないのね」

良かった、
貴方のこと名前で呼べるわ、と
彼女が言う。

「それに山一族では
 その鳥、縁起物なんだから」
「……縁起物」
「そう家が栄えるって、
 とっても貴重な品」
「……食べるのか?」

「食べるわね!!」

えぇえ、と
顔を青くした燕を
彼女は笑う。

「大丈夫、
 食べるのは巣の方よ」

「巣ぅ!?」
「美味しいのよ。
 食べたら分かると思うけどな」

空元気な所もあるのだろうが
そうやって話す彼女を強いな、と
燕は思った。

出来る限りの事はしてあげたい。

それと同時に
酷い事だと分かりながらも燕は言う。

「ずっと大切な人がいるんだ」

彼女には
正直に話して置きたかった。

「勝手に思っているだけ、
 それに
 家族を見守るような気持ちだけど」

ただ、幸せになって欲しいと
遠くから眺めているだけで良い。
そんな人。

「俺がそんな表情をしていたら
 怒ってくれ」

しばらくして彼女が言う。

「周りが決めた結婚だもの
 そういう事はあるわ」
「ごめんな、
 でも、
 ちゃんと君を一番に選ぶから」
「そう言ってくれただけでも
 充分よ」

ありがとう、と
燕が握った彼女の手は
もしかしたら少し震えていたかもしれない。

「……」

燕は目を覚ます。
久しぶりに自宅のベッドで迎えた朝。
ゆっくりと眠れたことで
夢を見たのだと自覚する。

あれは半年前の事だ。

「あぁ、起きたの。
 ご飯出来ているわよ」

彼女が寝室を覗き込む。

「おはよう。
 すぐに行くよ」

燕はベッドから抜け出す。


NEXT
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする