「医師様」
「辰樹、戻ったのか!」
呼ばれて、医師が慌てて出てくる。
そして、辰樹を上から下まで見る。
無事かどうか、確認する。
この医師は、辰樹の叔父にあたる。
辰樹は、目の前で手を合わせる。
そう、目上の者へ、敬意を示す。
「どうだった?」
「これ」
辰樹は、砂の浄化薬の作り方が書かれた紙を取り出す。
「務めは成功だな」
医師は辰樹の肩を叩く。
「うーん。成功と云うのか……」
「何だ。成功じゃないのか?」
医師は首を傾げる。
「ほら。中に入れ。怪我は?」
「あ、うん。かすり傷だけど」
「かすり傷でも、砂の毒は判らないからな」
医師は、中に入るよう、促す。
けれども、辰樹は動かない。
「どうした?」
「俺より、……向こうに相方が倒れてて」
「お前の相方?」
「砂に怪我を負わされて!」
「怪我を?」
判った、と、医師はが云う。
「なら、すぐに向かおう。お前は中で手当を、」
「いや。俺も一緒に行く」
「お前は手当が先だ」
「平気だって!」
医師は辰樹を見る。
「砂の毒の危険性は知っているだろ」
「だからこそ、相方が心配なんだ!」
「辰樹……」
「早く!」
医師は息を吐く。
「判ったよ」
云う。
「お前もそのあとに手当を受けるんだぞ」
「判った」
医師は、荷物を準備する。
辰樹は医師を案内する。
「辰樹待てって!」
辰樹はいつも以上の速さで走る。
市場を抜け
木々の生い茂った
東一族の村のはずれ
「辰樹、いったいどこまで行くんだ」
医師は息を切らす。
「ここに!」
辰樹はあたりを見る。
が
「そこに、……」
「どこだ?」
天樹はいない。
「ど」
「ど?」
「ど、どうしよう。俺!?」
辰樹は慌てる。
「ここに、天樹がいたんだけど!?」
いない。
「え? ええ!? あの怪我で動いた??」
辰樹はさらに慌てる。
「辰樹、落ち着け」
「天樹の父ちゃんと母ちゃんが心配してるに違いない!」
医師は慌てる辰樹を見る。
「落ち着け。動けたんなら、大丈夫だよ」
「でもっ」
「大丈夫だって」
医師は、辰樹をなだめる。
「その、天樹って子なら、俺に心当たりがある」
「……え?」
「お前を診たあとに、ちゃんと治療に行ってやるよ」
「でも、刀で刺されたような傷とかあったし!」
「判った判った」
医師は、病院へ戻るよう、辰樹を促す。
辰樹は、天樹がいた場所を再度見る。
歩き出す。
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