TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「辰樹と天樹」18

2016年03月25日 | T.B.2016年

「医師様」

「辰樹、戻ったのか!」

 呼ばれて、医師が慌てて出てくる。
 そして、辰樹を上から下まで見る。
 無事かどうか、確認する。

 この医師は、辰樹の叔父にあたる。

 辰樹は、目の前で手を合わせる。
 そう、目上の者へ、敬意を示す。

「どうだった?」
「これ」

 辰樹は、砂の浄化薬の作り方が書かれた紙を取り出す。

「務めは成功だな」

 医師は辰樹の肩を叩く。

「うーん。成功と云うのか……」
「何だ。成功じゃないのか?」

 医師は首を傾げる。

「ほら。中に入れ。怪我は?」
「あ、うん。かすり傷だけど」
「かすり傷でも、砂の毒は判らないからな」

 医師は、中に入るよう、促す。

 けれども、辰樹は動かない。

「どうした?」

「俺より、……向こうに相方が倒れてて」
「お前の相方?」
「砂に怪我を負わされて!」
「怪我を?」

 判った、と、医師はが云う。

「なら、すぐに向かおう。お前は中で手当を、」
「いや。俺も一緒に行く」
「お前は手当が先だ」
「平気だって!」

 医師は辰樹を見る。

「砂の毒の危険性は知っているだろ」
「だからこそ、相方が心配なんだ!」
「辰樹……」
「早く!」

 医師は息を吐く。

「判ったよ」
 云う。
「お前もそのあとに手当を受けるんだぞ」
「判った」

 医師は、荷物を準備する。

 辰樹は医師を案内する。

「辰樹待てって!」

 辰樹はいつも以上の速さで走る。

 市場を抜け

 木々の生い茂った

 東一族の村のはずれ

「辰樹、いったいどこまで行くんだ」

 医師は息を切らす。

「ここに!」

 辰樹はあたりを見る。

 が

「そこに、……」
「どこだ?」

 天樹はいない。

「ど」

「ど?」

「ど、どうしよう。俺!?」

 辰樹は慌てる。

「ここに、天樹がいたんだけど!?」

 いない。

「え? ええ!? あの怪我で動いた??」

 辰樹はさらに慌てる。

「辰樹、落ち着け」
「天樹の父ちゃんと母ちゃんが心配してるに違いない!」

 医師は慌てる辰樹を見る。

「落ち着け。動けたんなら、大丈夫だよ」
「でもっ」
「大丈夫だって」

 医師は、辰樹をなだめる。

「その、天樹って子なら、俺に心当たりがある」
「……え?」
「お前を診たあとに、ちゃんと治療に行ってやるよ」
「でも、刀で刺されたような傷とかあったし!」
「判った判った」

 医師は、病院へ戻るよう、辰樹を促す。

 辰樹は、天樹がいた場所を再度見る。
 歩き出す。



NEXT