TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「水樹と爺ちゃん」

2015年07月21日 | T.B.2000年

水樹は東一族の鍛錬場に走り込む。

「こんにちは、よろしくおねがいします。
 爺ちゃんあのさー!!!!!!」

あいさつと、鍛錬場に入る時の礼と
祖父への呼びかけを同時に行う。

「なんだぁ、水樹どうした??」

鍛錬場にいた水樹の祖父は
うわぁあああ、と
走り寄ってくる孫に答える。

「俺の師匠になってよーーー!!」

と、そのまま祖父に突撃。

「ぐふぅっ!!」

その後、鍛錬場で大騒ぎしない、と
怒られ道場の真ん中で正座で祖父に向き合う。

「師匠か。---で、水樹
 お前は誰に付いていたんだっけ?」
「成先生!!」
「あぁ。成院か」

東一族の男性は
幼い頃から武術の鍛錬をする。
その中でも武術が得意な子は
年上の腕のある者について
更に学んでいく。

「成先生、武術辞めるって。
 だから俺に教えるの出来ないってぅええええ」
「水樹、男がびぃびぃ泣くな。
 鼻水も拭きなさい」

祖父は水樹の鼻水を手ぬぐいで拭いてやる。

「成院か、
 そう言えば弟の意志を継いで
 医師になるという話だな」

東一族には
他一族との争いが起こった際に
戦術の指揮をとる、戦術大師と呼ばれる人が居る。
もちろん本人の武術の腕が無ければ
選ばれない役職だ。

成院は次期大将に選ばれても良い程の
腕は持っていたはずだ。
死んだ弟の為とはいえ、惜しいな、と
水樹の祖父は思う。

「だーかーらー、
 爺ちゃんに頼んでるんだって」
「水樹、爺ちゃんももう
 引退しているんだけどな」
「孫のために頑張ってよ
 伝説の大将でしょうがーー!!」

水樹の祖父は
その戦術大師---大将を40年近く勤めあげた。
歴代の大将の中でも
最長に位置する年数だ。

「爺ちゃんは偶然そう言う時代に
 大将になっただけだよ。
 なにせ西一族との争いで
 沢山の人が死んでしまったから
 次の世代が育つまでに時間がかかってしまったんだよ」

祖父が生きた時代はそういう時代だった。
西一族とも正面から戦った。
休戦の鐘が鳴ったとき、
すぐ近くで同じ鐘の音を聞いた西一族は
今、どうしているだろうか。

「良いから、
 思い出に浸るのは良いから、
 その西一族が美人さんだったって話は
 もう何度も聞いたから」
「そうだぞ、
 西一族は女の人も戦うんだぞ。
 そりゃあ勇ましくてかっこよかったな」
「なんだよ、負けたの爺ちゃん??」
「負けたんじゃないよ。
 その人と戦う前に争いが終わったんだ。
 戦うことにならなくて本当に良かった」

へぇ。と
聞き入っていた水樹だったが
はっと現実に戻る。

「話をそらさないでよ、
 爺ちゃん、俺の、師匠!!!」

「あぁ、分かった分かった。
 でも爺ちゃんも本調子じゃないんだから、
 次の師匠が見つかるまで
 型があっているか見るだけだぞ」

「やったーーーー!!!」

騒がない、と、水樹はまた怒られる。

「それにしても、成院か。
 晴子はどうしている??」

祖父は孫娘の様子を水樹に尋ねる。
成院の死んだ弟は
孫娘の恋人だったはずだ。

「姉ちゃんはね」

ごくり、と水樹が静まりかえる。

「この前焼いたお菓子が
 生焼けだった」

あぁ。

「それは、ちょっと
 重傷だな」

「でね、兄ちゃんとケンカしてね」
「大樹か」

3人兄弟の一番上の兄は
神経質で心配性だ。

「夜中に家出して!!!」
「家出!!???」

女の子が、1人で。
東一族では女性は大切にされるものだ。
夜に1人で出歩くなんて
とんでもない。

「成先生が、ウチまで送ってくれたよ」
「成院―――!!???」

祖父は色々考える。
あぁああ、そういうことなのかな。
いや、まてまて
話の展開が早すぎる。
単純に本当に親切で送ってくれただけだろうが。

「……水樹」
「何、爺ちゃん??」
「もし」
「もし??」

「2人が今後結婚する様な事があれば
 子供には未央子と付けるんだぞ、と言いなさい!!」

「爺ちゃん気が早ぇえええよ!!!」

「琴葉と紅葉」7

2015年07月17日 | T.B.2019年

 夕方。

 琴葉は、広場に向かう。
 そこには、大勢の西一族が集まっている。

 皆、狩りから戻って来たのだ。

 狩りの道具を片付けている者。
 肉を捌いている者。
 ただ、談笑している者。

 ほとんどが、琴葉には気付かない。

 琴葉はその面々を見て、ひとつの班に近付く。

「ねえ」

 琴葉が声をかけると、ひとりが顔を上げる。
 前村長の孫。
「何だよ」
「ちょっと分けてほしい」
「分けるだって?」
 前村長の孫は、目を細める。
「何を?」
「それ」

 琴葉は、指を差す。

 そこには、この班が獲ってきた、いくつかの獲物。

 前村長の孫は、舌打ちする。

「狩りに行ってないのに、何を云う」
 さらに、
「図々しいな、お前」

 横にいた紅葉が顔を上げ、止める。

「やめなよ」
「だって、こいつ、いつもふらふらしてる」
「やめなって」
「いつも、何をやってんだ? 医者の勉強か?」

 琴葉は目を細める。

「村人には、狩りの獲物は公平に配られるでしょ」
 紅葉が、琴葉に云う。
「全部の班が戻ってきたら獲物を分けるから、ちょっと待ってて」

「おいおい。公平だって?」

 前村長の孫が、せせら笑う。

「狩りに行かないやつに、不公平じゃないか」

 琴葉が云う。

「……ちょっとだけ分けてよ」
「何だよ、うるさいな」

 前村長の孫は声を上げ

「おい!」

 班の、もうひとりを呼ぶ。
 そのひとりが、顔を上げる。

 琴葉は、はっとして息をのむ。

 そこに

 黒髪の彼、がいる。

「お前の分けてやれよ」

 黒髪の彼は、琴葉を見る。

 目が合う。

「紅葉」
「何?」

 紅葉が返事をする。

 彼は立ち上がり、琴葉に近付く。
 紅葉は首を傾げる。

 そう、

 呼んだのは、紅葉ではない。

 琴葉のことだ。

 彼は、獲物を差し出す。

 琴葉は、彼を見る。
 そして、彼が持つ、獲物を見る。

 紅葉の目の前で、紅葉と呼ばれ、気まずい。

 琴葉は、獲物を受け取る。
 すぐに、背を向け、歩き出す。

 走り去りたい。
 でも、走れない。

「お前、お礼云えないのか!」

 後ろで、前村長の孫が、叫んでいる。



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「晴子と成院」7

2015年07月14日 | T.B.2000年

もうすっかり暗くなってしまった村の道を
晴子と成院は進む。

「成院、あのね」

晴子の言葉を
成院は静かに聞いている。

「緑子も兄様も言っていた
 私が、あなたを
 カイの代わりに見ていないかって」
「同じ顔だからな」
「そうね
 でも、いくら双子でも間違えはしない。
 代わりにはしない」

ずっと、見てきたもの、と
そこまで言えずに晴子は立ち止まる。

「そう、思っていたんだけど」

もうすぐ家に着いてしまう。
その前にどうしても話しておきたかった。

「貴方の中にカイを探してしまう。
 同じ所を見つけて、カイを思い出してしまう。
 そういうのを、
 代わりにしてるって言うんだろうね」

だから成院は言ったのだ
会わない方が良い、と。

「俺はさ」

黙って聞いていた成院が言う。

「晴子が俺の中に
 戒院を探してしまうのが・・・少し嬉しい」
「ーーー嬉しいの?」
「嬉しい、と思う時もあるんだ、
 なんでだろう」

訳分かんないよな、と、成院は言う。

「俺はこれでも結構焦っているんだ。
 あいつが居た証拠を残さなきゃ、
 でなきゃ、俺が生き残った意味がない」

「・・・生き残っただなんて
 変な言い方は止めて」

なんて事だろう、と晴子は思う。
成院がそんな風に考えていたとは。

「成院、ねぇ。
 あなたがカイの代わりとして生きる
 そんな必要はないのよ」

戒院が死んで悲しい事と
成院が生きている事は
全く別の話だ。

でも、成院にとっては
同じなのだろう。

「まぁ、でも
 医師になろうと思ったのは
 俺のわがままだよ」

それは、本当。
そう、成院は言う。

「俺が『戒院の夢』を追うのはおかしい事だ
 だけど俺がそうしたい思った。
 もう、誰かが死ぬのはこりごりだ」

代わりなんて
大げさな言い方をしたな、と
成院は言う。

「こんなの誰にも言うつもりは
 無かったのだけど
 晴子は聞き上手だからな」

「成院のうそつき」

大げさではない
彼は本心でそう思っている。
そんな晴子の思いが伝わったのか
成院は苦笑いを浮かべる。

「俺達がしている事は
 多分どちらもまっとうじゃない、 
 そう言われる事だ」

晴子が成院の中に
戒院を探してしまう事。

成院がそんな晴子に
安心している事。

「でも、俺達には、今
 そうするしかない
 そうやって、でも、
 少しずつあいつの存在が薄れていくんだと思うよ」

良い意味でね、と成院は言う。

「そういう日が来るのかしら」

戒院の事を忘れてしまう日が。

「分からない。
 俺だって今は
 いつかそうなるって信じてるだけ」

「そうだね」

晴子が頷いたのを見て
成院は先を促す。

「さ、帰ろう。
 大樹兄さんが砂漠の向こうまで
 探しにいってしまう」

二人はまた歩み始める。

「晴子、
 少し気持ちの整理がついたら
 今度は俺からお茶に誘うよ」

成院からの思いがけない誘いに
晴子は再び頷く。

「その時は
 焼き菓子を準備して待ってる」

「あぁ、晴子の好きな
 茶葉を持っていくよ」



T.B.2000
彼の居ない東一族の村にて

「琴葉と紅葉」6

2015年07月10日 | T.B.2019年

「あなた、父さんに外に行きたいって、云ったの?」

 病院の仕事部屋に入ってきた彼女に、母親が訊く。

 彼女は、母親を一瞥する。
 長椅子に寝転び、天井を見る。

 彼女の定位置だ。

「ねえ。訊いてるの」
 母親が云う。
「父さんに、村の外へ出たいと云ったの?」

「いつの話?」

「この前、父さんが戻ってきたときよ」

「云ったよ」
「何てこと……」

 彼女の答えに、母親は顔を曇らせる。

「行けるわけ、……ないじゃない」
「なぜ?」
「それは……」
「私の足が悪いから?」
 彼女が云う。
「馬車なら、いくつも出てるじゃない」
 さらに
「私、父さんがお仕事してるところで、一緒に住みたい」

 彼女は母親を見る。
 母親は答えない。

 彼女は目を閉じる。

 母親はため息をつく。

 と

 呼ばれて、母親は立ち上がる。
 部屋を出る。

 彼女は、薄く目を開ける。
 部屋には誰もいない。

 再度、目を閉じる。

 そのまま、寝転んでいる。

 どれくらい時が経ったか。

 ふと気付くと、母親が仕事部屋に戻ってくる。

「まだ、そうしていたの」
 彼女は、少しだけ身体を動かす。
「起きなさい」
 彼女は首を振る。

 母親は、椅子に坐り、持ってきた書類をまとめる。

 彼女は横になったまま。

「母さん……」
「何?」
「父さん、次はいつ帰ってくるの?」
「父さん?」
「そう」
「それは、判らないわ」
「……忙しいのかな」
「そうね」

 母親が云う。

「あなたのこと、心配してるわ」
「…………」
「あなたが、この村でちゃんと暮らせているのか」
「…………」
「だから」

 母親が云う。

「ちゃんと、勉強でもしたら?」
「したくない」
「何を云うの」
 母親が云う。
「狩りに参加出来ないのだから、何か勉強を、」
「しないったら!」
「なら」
「しないってば!」
「琴葉(ことは)!」

 琴葉は、長椅子の上で、身体を傾ける。
 母親に背を向ける。

「何も出来なくたって、いい」
「……琴葉」

 部屋の扉を叩く音に、母親が気付く。

「琴葉、起きて。誰か来るわ」

 再度、扉を叩く音。

「どうぞ」

 母親の言葉に、扉が開く。

 村長が、入ってくる。

「……村長」
「話がある」

 琴葉は身体を起こす。
 村長を見る。

 村長と、目が合う。

 琴葉は目を背け、立ち上がる。
 部屋をあとにする。



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「晴子と成院」6

2015年07月07日 | T.B.2000年

「晴子……来てないか?」

そう家を尋ねて来た大樹に
成院は首を横に振る。

「いや」
「そう―――だよな。
 すまなかった」

成院は去りかけた大樹を呼び止める。

「晴子、いないのか?」

大樹は答えないが
つまりはそういう事だろう。

「こんな時間に」

成院は外を見回す。
日はとうの昔に沈んでいる。

「いや、大丈夫だ。
 俺が言いすぎたんだ。
 しばらくすれば戻ってくるだろう」
「こんな時間だぞ、
 もし西や砂一族がうろついていれば」

両方とも、東一族と敵対する一族だ。
特に砂一族は
東一族の女子供を攫っていく。

それは大樹も分かっている事だ。
だから、焦っている。

「西一族はここまでは来ないだろう。
 砂一族も……」

しばらく口ごもっていたが
大丈夫、と大樹は成院の家を後にする。

「本当に済まない。
 気にしないでくれ」

大樹が去った後、
成院も家を後にする。

「気にするなという方が無理だ」

成院はひたすらまっすぐに進む。
ここだろうと核心はあるが
そうでなければいいのにと思う場所に。

こんな時に、晴子が行く所。
決まっている。

「―――成院」

東一族の墓地。
戒院の墓の前。

そこで立ち尽くしていた晴子は、成院に気がつく。

「どうしたの」
「どうしたのじゃない。
 大樹兄さんが探していたぞ」

晴子は言われて初めて辺りを見回す。
日が暮れていることに気がつき

「そうか、帰らなきゃ」

ぽつり、と呟く。

「探しに来てくれたんだ、
 ありがとう。成院」

名残惜しそうに墓前を離れた晴子に
並んで成院は歩く。
いつもよりもゆっくりと。

「大丈夫、一人で帰れるよ」
「いや、送るよ。
 何かあったら俺の夢見が悪い」
「……ごめんね」

「まあ、晴子には余計な心配だったかもな
 伝説の大将のお孫様だし」

「ひどい
 爺様は凄いけど、もうっ」

成院ったら、と晴子が少し笑う。
それを見て、
少し落ち着いたな、と成院は思う。

「……何があった?」

大樹が言っていた、
言い過ぎた、と。

「戒院の事か?」

促す様に成院が問いかけると
晴子は頷く。

「カイが、酷いやつだって
 浮ついた噂ばっかりあるやつだって」
「否定はしないけど」
「……だって」

晴子の声が弱々しくなって
言い間違えた、と成院は慌てる。

「あ、悪い意味じゃなくて
 あいつはちゃんと晴子の事、真面目にだな」

「分かってる、
 そうじゃないの」

「カイが、杏子姉様に
 次期宗主の許嫁様に声をかけていたのは
 貴方のため、だったんだ」
「……え」
「成院が、杏子姉様のこと好きなの知ってたから」

今はもう居ない。
成院が好きだった人。

「でも、成院は
 杏子姉様の事、もう恋人がいる人だからって
 諦めてたでしょう」

あの時から色々な事が変わってしまった。
晴子の恋人も
成院の憧れていた人も。
みんな流行病で居なくなってしまった。

「それでも、少しでも成院が話せたら
 そのきっかけになれたらって」

残ったのは、晴子と成院。

「カイはそんな理由、誰にも気がつかれないと思ってたけど
 私は知って……って、え、あ」

晴子は
隣で顔を真っ赤にしている成院に気がつく。

「ば……れてたんだ」

「ご、ごめん成院。
 あの、その、貴方が、その杏子姉様の事を好きなのは
 大体みんなが知って、それでカイが」
「あーあーあー、
 その話はいいから、いいから!!!!」

もうやだ、消えたいと
珍しく成院が弱音を吐く。

それが何だかおかしくて
晴子は思わず笑ってしまう。

「貴方と話せて良かった。成院。
 なんだか悔しかったんだ。
 兄様達が、村のみんながカイの事誤解したままなのが」

そうか、と成院は言う。


「ありがとう晴子」


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